春の知らせ

改札を出ると
あたりはうす暗く、
先程まで赤赤と燃えていた西日も
今ではロウソクほどの火を辛うじて
保っていた

ワタシはそれを見ていた
ただ消えていく陽を見ていた

夜が来る

駅前の商店街を抜け
行きつけのスーパーに寄る
半額の惣菜と缶ビールを買い
足早に店を後にした

青白い街灯の灯りを頼りに足を進めながら
スマホの写真フォルダを見返す

今日は町に出た
特に目的があったわけではない
強いて言うなら
創作に役立つものを探していた
この頃部屋にこもり幾度となく詩を描き
音に乗せる日々が続いた
だが、口をついて出てくるものはどれも
出来損ないの言葉と音楽ばかりだった

「何か足りない」

そう思った時には最低限の
荷物を持って家を出ていた

フォルダの中身1 枚1 枚に目を通していく
特に目につくものは見当たらない
だんだんと画面をスライドする手が早まり
作業のようになっていく

ふと1 枚の写真に目が止まる

そこにはビル街を見下ろす
1 羽の鳶が映されていた

ただ何気なく撮った1 枚だった
その1 枚の写真になぜか見入ってしまう

大都会の上空で彼は何を見ていたのだろう?

その大きな目に何を写したのだろう?

ワタシと同じで何かを探していたのだろうか

探し物は見つかったのだろうか

そんな妄想めいた思考が
頭の中を埋め尽くす

気が着くと家の前だった

玄関を開け、靴を脱ぎ
部屋に入る

テーブルの灰皿には吸殻の山
床には脱ぎ捨てられた上着とビール瓶
そしてここ数日間のワタシから溢れた言葉達が
転がっている

ワタシはそれを一瞥したあと
薄手のコートを脱ぎ
買ってきた缶ビールを片手に
バルコニーへと向かう

いつの間にか月が出ていた

その光を静かに浴び、アルコールを流し込む

ただ時間だけがすぎてゆく

心地よい風が頬をすべる

その風は少し暖かく、やさしい匂いがした

もうすぐそこに春が来ていた

淡く柔らかな月の光を浴びながら

私は静かに風を喰んだ

投稿者

福岡県

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