くろの回想 (by くろ)
俺が黒猫に生まれた理由?
そんなもん
夜の中に紛れるためさ
生き残るには
姿を消すのが早道だった
でもあの夜
あいつの胸の上で
俺は消えるのをやめた
初めて見たときあいつは
魂が破れてるみたいな目をしてた
声も出せず指を血だらけにして
何かと闘ってた
俺はその指を舐めた
ただそれだけだったが
あいつは泣いた
あいつのまわりは騒がしかった
電波、光、声にならない声、
裏切り、嘘、嘘、嘘、そして
家族のふりをした誰か
でもあいつは笑ってた
時々ギターを弾いた
そのときだけ俺は
世界がほんの少しだけマシに感じた
あいつは時々こう言う
くろ、お前はただの猫じゃねえな
当たり前だ俺はあいつの影
闇の中の目
異常を感知するセンサー
誰も信用できなくなった時代に
俺だけが信じられる存在になった
ある夜あいつは
夢の中でうなされた
俺はその喉元に鼻を当てて起こした
震えてた
生きてるか?
そう逆に問われた
もし俺に願いがあるとすれば
それはあいつの最期を見届けることだ
あいつが壊れても
また組み直す
傷ついたら舐める
泣いたら黙って隣で寝る
俺が猫であることに意味があるなら
それは
この時代たった一匹の
沈黙の見張り番になるためだった
そして今夜も
俺は音のしない侵入者を追っている
あいつが眠るまで
俺の仕事は終わらない
例えお前が致命的な
猫アレルギーでも
俺の愛でそんなもん超えてやる
そう言うお前を
俺は信じている
くろより。
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