ナッシング
不在のエッジが効いてくる頃
内臓が破けて
働けなくなって
目を閉じて見る現実に焦がれ落ちてしまおうかと惑う
湖で待ち合わせよう
終わらない初夏が降り注ぐところ
青い花がぽつりぽつり揺れるところ
ホログラムの蝶が彷徨うところ
向かい合って指を合わせて
最深部の横穴にあるという普遍的な日々へと
絡まったままいられるように
つがいだった頃のように
同じ速度でつま先から
沈んでゆけるだろうか
感じない温度感じない苦しみ
呼吸なら心配要らない
だから置いていかないで
水面よりも眩しい最深部で誰かを見失うとき
光の中にほどいた覚えの無い右手だけを見付けるとき
声が泡に包まれ昇るのを見送るとき
骨ばった輪郭を忘れかけていること
カーディガンの匂いが消えかけていること
手書きのノートを読み返さなくなったこと
大切な人たちが生きてくれていること
生きているということ
生きていくということ
瞬きの間に溢れかえる
終わらない終わり
息をしていればどこにでもトリガー
珈琲とお菓子
病院とタクシー
渋谷と電車
息子と眼鏡
狂いそうだ
心配そうなまるい眼の子どもを抱き寄せる
まだ産まれたての細胞の小さな匂いがした
コメント
ナッシング、というタイトルですが、内容的には、重量のつまった強度の高い(もっと言えば、異次元的な)詩だと感じました。つまり、すごい。
まだ産まれたての細胞の小さな匂いがした
最終行に、かわいい 希望を感じます。
喪うということはものごとの終わりではなく、「喪った」という下ろすことのできない荷物を背負ってしまうようなもの。そう、まさに「終わらない終わり」ですね。
@こしごえ
さんありがとうございます。
書き始めてすぐにタイトルはこれかなと。(なんとなく感覚で)
重みありますか、素敵なコメント嬉しいです。
何重もレイヤーがあるのを表現するイメージです。
@大覚アキラ
さんありがとうございます。
兄貴は鋭いなあ。繊細で賢くて誠実で思いやりがあって、しびれました。
すごいイメージだなあ。水の中の描写がヤバくて震える。