夜明けの詩

僕を産んだ女の人は、特に珍しくもない普通の醜い女だったけど
たぶん
容姿が格別美しかったとしても僕は彼女の悪意を認めなかった

彼女の姉妹は。とても美しい叔母になったけど
頭の良さというものは善悪の判断が出来るかということとは
違うんだと思う

僕を産んだものから僕は遠く離れて
千里の丘を越え悠久の砂漠を越えて
何処へ行くんだろう?
多分何処へ行くにせよ結局は貴方の所まで帰るのだ

訳の分からぬ力に突き動かされて、何が真実で何が偽りだったか
少しずつ狂っていくということは少しずつ正しくなっていくということ
もうゲームは終わった後で
僕達は片付いたテーブルにいつまでも就いたまま飲んだくれている

目を閉じなければ
恋しい人の声さえ思い出せない
街の市場の喧騒に紛れて朝の光に眩みながら
必死になってその手を掴んでいる
逸れてしまわないように、別れてしまわないように
傍にいるのがどんな悲しみであろうと
それが他の何物でもない恋だったから

僕がまだ愛しているのが誰だったかなんて
もう誰にとってもどうでもいいだろう?
トランプは終わったんだ
勝ったのは貴方で
負けたのは僕
たとえそれがイカサマでも
僕が負けたくて勝たせたんだとしても

プライドが邪魔をするのか?なけなしの心が痛むのか?
本当の勝負がしたいっていう願いで貴方の心もいっぱいになる
それだけでいいさ
明け方の夜、雲の切れ端
疵物にした女に鼻っ柱を折られる夢

願いの強さがゲームの運だよ
神は願いを聞き届けて下さる
目に見えないものを見せてくれる
段々昏くなっていく空
もうじきだ
もうじきなんだよ
いつだってそこで手を伸ばすことを諦める
その瞬間

僕は貴方の手を摑まえられるだろうか
いつものように
千年も一万年も前から決まっていた段取りで
番う鳥達みたいに
いつかきっと飽きられちゃうだろう
肩を竦め
指先を眺める
そうだな
いつかきっと飽きられるとばかり思っていたあの子も
僕が捨てたのに

さよなら、さよなら、
そう言って帰ってくる
あの日の空の向こうで
貴方はまだ産まれていない
世界が代わりに泣き出すのを
僕は他人事のように眺める
いつか笑い出すんでしょう
僕は知っていて背中を向け
お伽話を読んでいる

投稿者

神奈川県

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