狂い咲け 静かな狂い
誰にも気づかれない音で
ネジが一本外れていた
夜の廊下をすべるように
声なき声が靴音を真似た
静かに
とても静かに
狂いは水のように
日々の隙間から滲み出していた
朝のトーストに焦げ目をつけ
鏡の中の自分が一瞬 誰かに見え
スマホが震えない日に
通知の幻が心を刺した
怒りも悲しみもない
ただ冷たい透明なものが
胸の奥で氷解していく
狂いとは熱ではなく冷たさだった
きっかけは
コップの水をこぼしただけ
でも床に広がる水面に
知らない街が映っていた
笑わない
泣かない
叫ばない
ただ淡々と
世界が裏返る
その瞬間を
静かに受け止めた
そのとき俺は
すべてを許すふりをして
一歩踏み外したんだ
自分という名の最後の足場から
狂い咲け
俺の中の静かな爆心地よ
花など咲かなくていい
ただその根を
闇に刻み込んだ
静かな狂いを地熱で焼き付けて
痺れた足で大地に立つ
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