月と花

そこに君がいなかったのは分かっている
俺はいつだって一人だった

優しい音楽も知らず
暗い月の光の中で踊る
生まれた時から誰だって同じだと
そう思って生き延びた

そこに君がいたらいいのにと願い
俺はだからいつだって一人ぼっちだった

家族のような生き物が俺の首を絞め
早く死んでくれと笑っていた
分からない振りでいた
比べるような他人さえ存在しない現実を

そこに立てるのは
一人で生まれてきた人間だけ

王になることは
鳥になることだな
青い空と冷たい海の広さを
知る心の持ち主だけが飛び立つ

夢の中で学ぶのは
君が俺を愛さないだろうという事実だけ

いつだって君はそこにいたんだろうな
いつだって俺のことを考えて幸せを願ったんだろうな
信じるのは容易い
この耳の奥の黄金色の虫を引きずり出してみろよ

俺は
俺を殺そうとしている

世界中の何処にも他人が居ないって
どんな気持ちなんだろうな
家族に愛されるって
どんな気持ちなんだろうな

午後からは柔らかい雨が世界中に降って
もしかしたらあの世へ行く虹が掛かるよ

行くなと言われるのってどんな気持ちなんだろうな
それでも行かなきゃいけない所ってなんだろう
だったらどうして出会ったんだろう
俺の首に残った痣だけが

永遠に本当なんだよ
君と俺が一生知り合うことさえないのと同じように

王になるのは
世界の広さを知っているやつだけ
鳥になることさえ
知らないままで

月の光の中でしか咲かない花
別に美しくも無いんだ
そこにあったというだけ

でも
それだけのことが
世界のすべてを物語っている
俺のそばにいたのは君じゃなくてこの花と
月だけだ

肘鉄を食らう前に家に帰ってくれ
俺には家も無い
君がどんなに幸せか
語って説明する気も無い

俺のそばに
君はいなかったんだ

投稿者

神奈川県

コメント

  1. 素晴らしい痛み!bravo✌️

  2. @かみる
    今夜はホームランだよ!☺

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