
098
いつまでも
想い出にならない夏
痛くもなく
ただ痺れていただけの夏
ぽとり
昨日の端から
呆気なく零れ落ちたわたしは
黒い服を着せられ
どこかが
痛いような顔をした
幾つもの影に紛れて
透き通らない汗をかいていた
ぽつり
鉄の扉から
無造作にひきずり出された
あなたの白い欠片を
なにかで
困ったような顔をした
幾つもの影に紛れて
扱いづらい箸で拾った
どこにもいない
最後にあなたが
言いかけた言葉から
目をそらすように仰いだ空に
モラトリアムの日々が
心もとない煙となって
すすり上げられていった
あおくこげたそら
いつまでも
想い出にならない夏
もうひとりのわたしが
始まってしまった夏
コメント
どこか、なにか、どこにも、
キャッチーでありながら目の奥の悲しみを感じる部分がじわじわします。
最後の二連に響いてます。
重ねられる描写に、身近な人の喪失はこういう描き方もあるんだなぁと引き込まれました。
特に、「昨日の端から/呆気なく零れ落ちたわたしは」というところや、「モラトリアムの日々が/心もとない煙となって」で表現されているところがいいなぁと。「もうひとりのわたし」が始まってしまうまでの猶予期間があるとショックも和らぐのですが…
数々の素敵な比喩を操られてきたnonyaさんですが、この詩は喪失から始まる終わらない夏からの季節の描き方が秀逸だなぁと思います。人生は自分がひとりきりになるまでずっとモラトリアムなのかも知れないなぁ。
@たちばなまこと さん
>コメントありがとうございます
どうしても納得いかなかった過去の詩を
リライトしてみた結果です(笑)
ひとつだけ分かったことは
納得いかないものはどんなにいじっても
納得いかないんだということです。
@汀尋(ていじん) さん
>コメントありがとうございます
何の前触れもなく突然逝かれてしまうと
人の感情は麻痺してしまうようです。
私の場合はその他にもややっこしい事情があったので
ちゃんと泣いてあげられませんでした。
@あぶくも さん
>コメントありがとうございます
今となってはモラトリアムをさせていただいたことに感謝しかありません。
私は「大人」になるのにとても時間がかかったので
大勢の人に迷惑をかけてしまいました。
今となっては恩返しもできなくなってしまいましたが
せめて「言葉」だけでも発していこうと思っています。