098

098

いつまでも
想い出にならない夏

痛くもなく
ただ痺れていただけの夏

ぽとり

昨日の端から
呆気なく零れ落ちたわたしは
黒い服を着せられ

どこかが
痛いような顔をした
幾つもの影に紛れて
透き通らない汗をかいていた

ぽつり

鉄の扉から
無造作にひきずり出された
あなたの白い欠片を

なにかで
困ったような顔をした
幾つもの影に紛れて
扱いづらい箸で拾った

どこにもいない

最後にあなたが
言いかけた言葉から
目をそらすように仰いだ空に

モラトリアムの日々が
心もとない煙となって
すすり上げられていった

あおくこげたそら

いつまでも
想い出にならない夏

もうひとりのわたしが
始まってしまった夏

投稿者

東京都

コメント

  1. どこか、なにか、どこにも、
    キャッチーでありながら目の奥の悲しみを感じる部分がじわじわします。
    最後の二連に響いてます。

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