スペルマフルネス

*→ 

精子の匂いがした

薬を飲んでも
聴く人のことを考えねば
いい音楽は
作れない

だから

しわだらけのシーツの上で
蛙になった
あなたは
愛していると
百回言った

白濁し
粘稠度の増した
大気は
鮮明な意識を
許さない

だから

七色に姿を変える
二匹の
魚が
愛していると
百万回言った

かたまらないメレンゲのような
朝に

精子の匂いがした

それは不快な臭いではない
それは湿った風が運ぶ
それは夏の訪れを告げる

 匂いを体験することは音楽や映像に魅入る
 ことより多くない。嗅覚領は聴覚領や視覚
 領より弱くて小さいのだ。嗅覚領は他の二
 つよりも古い脳、より動物に近い脳だと言
 える。蛇が冬眠から目覚めるように、無意
 識という穴で眠っていた私は精子の匂いで
 夏の訪れを知る。意識という地上に現れる

それは

アンニュイな吐息だ

犯す

あなたが関節液を犯す
あなたは骨まで溶かすだろう

匂うほどの色香は

暴力

佇む

わたしがその前に佇む
わたしはマゾヒスティックな快感に怯えるだろう

「あなたにわたしを裏切る権利をあげよう」

かたまらないメレンゲのような
朝に

→*

投稿者

愛知県

コメント

  1. ものすごいコメントしたくなる詩でした。でもどの切り口から語るべきか考えよう、嗅覚は確かに視覚や聴覚よりも遥かに、未開で だからこそ、そこに言及するのは意図的に、人間の感覚を拡張するような、気分にさせられる。
    グルメのことわかんないんですが、、
    アンディーウォーホールがまだ生きていて、ミシュラン2つ星くらいのレストランをプロデュースしてたら、こんなメレンゲがスプーンに乗った料理が、コースの最初に出てきてそう!と、夢想した。

  2. 大学生の頃、キャンパスに続く長い坂に栗の木が何本も植えてあって、初夏になると匂い立つ精液のにおいを感じながら毎日通っていたのを思い出した。嗅覚領の話は興味深いけど、聴覚や視覚より記憶に直結するように思う。ドルガバの香水のせいで過去の女性を想起するみたいな、しょうもない歌みたいに。それはともかく、なんとなく、たかぼっちの感性の新境地が表出している気がする。

  3. タイトルも好きです。
    かっこいいです。
    ニジマスなどの川魚の表面の匂いを思い出しました。湿度の高い空間で泳ぐいきものたちのいとなみのように感じました。

  4. 菊座から始まり菊座に終わる。もちろんLGBT・・XYZ、それもいいし当然だろう。しかし蛙が100回で魚が100万回というのは明らかに差が大きすぎます、差別です。七色だからですか!
    ところで粘稠や嗅覚領などやっぱりたかぼ氏の作品はスペルマ(これもドイツ語か!)の匂いより消毒液の匂いがする。はっ、医療用AIが書いているのか!
    僕もトノモトくんが言うように匂いで喚起される記憶は鮮明だと経験上感じるのです、が、やはりドルガバの香水のせいでうんぬんみたいなしょうもない歌は、ないなと思っておりました。

  5. コメントくださった皆さんに敬意を表します。コメントを書くことは詩を書くことよりも難しくて退屈なことだと思うからです。

  6. timoleonさん。アンディウォーホルプロデュースってのは話題沸騰しそうですね。しかもミシュラン2つ星ってのが絶妙です。一番勢いのあるレストランは2つ星に違いありませんから。そんな料理私も食べてみたいものです。(精子の匂い抜きでお願いします笑)

  7. トノモトショウさん。それそれ。栗です。ドルガバの歌をしょうもないと言って下さり溜飲が下がりました。新境地と言って下さり励みになります。

  8. たちばなまことさん。タイトルに一言頂きありがとうございます。タイトルは流行の精神医学用語であるマインドフルネスに、精子のスペルマをくっつけた造語で、思いついたときにはこれしかない!と思い、スペルマフルネスという語が存在しないことを確認してから決定しました。どこかの新人バンドがグループ名に使ってくれないかな。

  9. 王殺しさん。医療用AIに詩を書かせたらどんな作品ができるか! 面白いですね。わくわくしますね。早晩実現しそうで怖いですね。ドルガバ香水程度の詩なら安心しますけどね。因みに私はデパートの香水売り場を歩くのが大好きです。

  10. 精子の匂いがした、というのインパクトあります。もしかして、生死の匂い? とも言えるのでしょうか。
    精子はいのちのかたまりで、いのちのもとですね。
    夏の訪れ。夏はいのちのお祭りみたいな季節ですよね。
    タイトルと共にいのちがこの詩の深いところまで流れている感じがします。

  11. こしごえさん。さすがに深い読み、ありがとうございます。

  12. 音楽、というのが、小さな比喩になっていますね。聴く人のことを考える。二連目と、散文調のところ。「精子」は、性欲というより、生の源、ゆえの激しさ、苦み、葛藤、というふうに解釈し読んでみました。

  13. 長谷川忍さん。私の拙い詩に、深い意味を与えてくださりありがとうございました。

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