シグナル
この世界という電車に乗り続けることが
いつまで出来るのか考えている
初夏の熱気に包み込まれて
今日を祝うために集まる人々の海を泳ぐ
たった一度でもタイミングを間違えたり
発車時刻に遅れたりすればもう着かない
母の手を引いて生きたいという願いの夜を
手提げちょうちんのように歩いていく
ああ、きっとこの先には、終わりがある
だから走り続けるのだ、この電車は
ぴかぴかと明るい信号を星のように眺め
規則正しい道路を鼓動に合わせてなぞる
俺は誰を愛していると言ったんだ?
恋人に向かって野暮な質問をする
流れ流れる川や海のようにはなれない
山や丘のように静かにもなれない
ステップを踏むのに似合いのワイシャツ
ジーンズは擦りきれない程度に上等
しかつめらしく走り込んでくる電車の
美しいくちびるの中を呼吸する
今日はどんな神が噂話をしに来ているの
新しく生まれた世界のまばたきの音
ゆらめくちょうちんの灯りに導かれ
絡み合った足の間に孕んだ熱と匂い
次の発車ベルの音が鳴り響く
駆け出すことさえ忘れて俺たちは行く
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