最後の夏野菜カレー

心が死ぬほど
園児が食った後の皿を洗いながら
考えるのは
彼女のぶっ飛んだ声

美しい青春だった
貴方が思ったよりはきっと遥かに
俺が何故口を開かないのか
誰も気付かなかった

そんなこと在り得ないと思ってたんだろう
想像する余地すら無かったのさ
俺だって別に知られなくて良かった
痴呆で棒きれ一つ拾えなくなった犬と同じだった

自分の性別を捨てるって事は
自分の脳味噌を半分捨てるって事さ
よく分かんないだろうけど
俺は人間がどっちにもなれるのを感覚的に知っている

みすぼらしい女なのか
かっこつけた男なのか
どっちにもなれないまま
ほら、カレーの鍋がぶち込まれる

美しい青春だったよ
彼女に似合いの掃き溜め
勉強なんてしてる場合じゃなかった
だってほら、月が一緒に踊ろうって言うんだ

これ以上なんて無かった
素晴らしく美しい夜だった
何処へ漕ぎ付けようと故郷よりはマシさ
アクセルとブレーキを踏みながらこの車動かないよってげらげら笑う

全てが偶然だよ
神が決めたことさ
でも恨まない
幸せだったからね

抱き締めてくれって言わなくても彼女は抱き締めて
俺の為にいつも泣いていた
俺が一人でも愛された記憶を抱いていけるように
俺が笑わすから笑ってくれた

どうすれば良かったんだ
俺達はもうくたびれちまって
煙草とか酒とか男とか女とか腐った路地裏でゲロ吐きながら
明日が来るなんて本当に信じられなかったんだ

俺の子は元気かな?
不思議な世界だ
手と手を取り合って夜が明けるまで目隠しで森を往く
貴方にだけ会いに来たんだ

俺達が生まれた世界の話を一部始終聞かせる為に
俺が綺麗に死ぬために
彼女の子供が幸せに育って立派な大人になれるように
時に正しさってのは破壊を伴う

欺瞞だといいなぁ
これが理想だなんて思いたくもない
現実が皆こんなに澄んで清らかな愛に包まれてたとしたら
汚れた俺達は多分息も出来ない

生まれ変わるしかないのさ
彼女今の俺を見て手首の傷を久し振りに増やすかもな
それとも今は別の自傷行為が流行ってるのかい
たとえば、、、

月と星が囁き交わす人間の運命
ステップを踏むように信号に合わせて歩く
何も変わってないのに
俺は今だってきっとゴミで糞でクズでろくでなしなのに

今夜は盗人と天女の一年に一度の逢引の日
服盗むほど好きだったって気持ちは分からない
でも服盗まれたら帰らないかもしれない
帰れても帰らないかもしれない

聞こえるのは彼女の愛の囁き?
布団に顔を押し付けて嗚咽を堪えるだけの毎日だったさ
その内泣くことも忘れる
うまく泣くようになる

明日死ねるから今日は生きよう
誰にともなく呟きながら
ただ生き永らえるだけの日々を
青春と呼ぶのなら

嗚呼
美しい青春だったよ
お皿いちまい乾き切るように綺麗に重ねないといけない
じゃがいも、にんじん、たまねぎ、ひきにく、なす、さといも、

投稿者

神奈川県

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