五連詩 喰らうもの

『祀られしもの』
小さな祠に、生首の石像が祀られている
石像が、置かれた理由を知る人はいない
字が彫り込まれているが、読める人もいない
長年、地元の民から恐れられてきた

黒い火山岩、造形はしっかりと残っている
頭と首、大きさは人と同じくらい
その目は吊り上がり、口は大きく開いている
何か、絶叫しているようにも見える

今は亡き、古老の遺した言葉は
石像は、身体を捜している
石像の、目を決して見てはいけない
目には、赤い布が掛けられている

丑三つ刻、無人の祠
身体を返せと、繰り返される怨嗟の声
石像の目からは、血が流れ出る
そして、絶叫が周囲に響き渡る

救いはない
この世が、存在する限り
石像は苦しみ続ける
石像の周りは、凄まじき怨念で満ちてい

          ※

『葬られしもの』
古代の墳墓より
石像の、バラバラにされた身体が
発見されたのだ
無数の手足、大きさの違う胴体
不思議なことに、頭は一つもなかった
不吉、何かが違う、怨念が漂っている
祈祷ののち、再び身体は墓に戻された

この記事を読んだ
ネット配信目当ての、愚か者がいた
郷土の石像を、思い出す、その恐ろしさも
それでも
禁忌を破ることに、何らためらいもない
日中、車にて祠に横付けする
重い石像を抱え、トランクへ
墳墓へ向かう

着いたのは丑三つ刻
首の石像を墳墓の上に置く

何も起きない
がっかりとした愚か者は、石像の頭を蹴り
車に向かう

地響き
墳墓から赤い光が周囲を照らす
戻ったぞ
墳墓は割れていく、剥き出しになる胴体や手足
首は、転がりながら裂け目に向かう

沈黙

そして、凄まじき笑い声が響き渡る

頭は、人間に戻った
胴体も、人間に戻った
手足も、人間に戻った
一つの頭に、無数の身体が重なっている

この世に、在ってはならぬ災いが黄泉がえった
災いは
女性の声で笑うのだ

災いを、一目みた愚か者は正気を失う
よだれを垂らして泣いている
災いの口は大きく開く
一呑みで愚か者は消えた
ずる、ずりゅ、ずりゅうと、音がする

深閑

やがて、何ごともなかったかのように
愚か者が、墳墓から降りてくる
慣れた動作で車に乗り込む
エンジンがかかり、車が動き出した
排気ガスの臭い
テールランプの灯り

斯くして、災いは世に解き放たれた
人、己の業のままに苦しむのみ

         ※

『コンコースの異形のもの』
大阪、梅田南北コンコース
夕方、通勤の人で混み合っている
若者が一人
おぼつかない足取りで歩いている
何かに、歩かされているような
皮の下に、別なものがいるような

コンコースの真ん中で、立ち尽くす
よく見れば、ネット配信をする男とわかる
人で溢れかえるコンコースでは目立たない

男が膨れ上がり、弾ける
大きな風船がような、弾けた音がする
凄まじき異臭
一つの頭に
無数の胴体、手足を生やした災いが現れた
悲鳴、逃げる人、人
パニックが起こる

災いの口は大きく開く
無数の手足は、次々と人を捕らえ口へと運ぶ

ものの5分とかかからず、コンコースは無人に
中央に居る汚れは、大きなげっぷをした

監視カメラの映像から、警察へ通報
瞬く間に、周囲は立ち入り禁止となる
銃を構えた警官隊が近づく
秒とかからず、汚れの腹に飲み込まれた
一日、後に突入した機動隊のロケット砲
三日、後に陸上自衛隊
5台の戦車から主砲を打ち込むも
吸収され、戦車もろとも呑み込まれた

汚れは、呑み込むたびに大きくなる
今や、コンコースの天井に届くほど巨大さ
戦車部隊、後に訪問者は途絶えた
ならばと
汚れは、手足を長く、長く伸ばし
封鎖線を越えて、人を捕らえだした
五日目、梅田、全域が立ち入り禁止となる

汚れは、梅田という街を呑み込み始めた
隣接する高層ビルをも越えて
巨大化した身体を、全世界に晒している

日米首脳会談の後、米軍の協力のもと
B-52爆撃機が高高度を飛行している
大規模爆風爆弾 MOABモアブが落とされた
結果は
巨大なげっぷの振動が、周辺に響いたに過ぎない

         ※

『暴食のもの』
梅田、警戒線を越えてくる人あり
高級なスーツ、靴、腕時計、五十代くらい
警戒中の軍に発見され、銃口が向けられる

紳士は、流暢な英語で話しだす
貴方たちが、汚れ、と言っているものです。
交渉に来ました
この星の首脳たちにお話しがあります

こうして、首脳会談が開かれた
画面越しに集まる各国首脳
紳士はいう
毎日、千人の生きた人間を捧げなさい
でなければ、この星を食べましょう
ざわつく首脳たち
核兵器、問題ありません
どんどん大きくなるだけ
会談では、決まらず紳士は梅田に戻った

各国首脳は相談する
核兵器、を自ら言うくらいだ
実は、恐れているに違いない
こうして
本州からの住民の避難が終了しだい
有志国は合同で、大量の核兵器を発射する

汚れから伸びた無数の手足は
次々と飛来するミサイルを捕らえ、口に運ぶ
数発が爆発
その瞬間、全てが汚れの口に吸い込まれれた
用意された、核兵器全ては喰らわれた
そして
汚れは、巨大化する
衛星画像でもはっきりと見える
高さ八千メートルの球体になった、汚れ
そしてげっぷは、もはや地震
地球全体を揺らす

地球首脳連合は、毎日1千人を捧げものとして
汚れに差し出すことで合意
使者を送るも、紳士は現れない

衛星画像を監視していた科学者たちは
恐るべき報告をする
汚れの口が見えない、地下に向いている
世界中で発生している地震、津波、噴火
ますます巨大化する、汚れ

地球を食べている、と

         ※

『星を喰らうもの』
世界中で発生している地震、津波、噴火
ある日を境に、止まる
衛星画像で確認出来た
北海道を上回るくらいに巨大化した汚れも
地中に消えてしまう
平和が訪れた

科学者たちはいう
地球のマントルには勝てず
蒸発してしまったに違いない

と、例の、汚れの使者が国連ビルを訪れる
高級スーツを身に着け、流暢な英語を喋る
各国首脳が集められ、会議が開かれた
紳士はいう
全て、いただきました
私が、この星そのものです

ざわつく首脳たち
紳士はいう
私、お腹が空いています
そして、天井の一角を指差す
あの衛星を食べたいのです
私の、分身を連れて行きなさい
嫌なら
海を呑み干しましょう

もはや、否はない
バスケットボールサイズの汚れが、月に送られた

しばらくすると
月は消え、月サイズの汚れが星空に浮かぶ

再び、例の、汚れの使者が国連ビルを訪れる
高級スーツを身に着け、流暢な英語を喋る
各国首脳を集めてください
集まる首脳たち
紳士はいう
命令します
太陽系、全ての惑星に私を送りなさい
壮大なプロジェクトが始まる
でなければ、人類は存在出来ない

衛星画像から見た地球
巨大な顔が映っている
何が恐ろしいか
その目線は、太陽に向いている
その目が語る
何と美味しそうな、恒星だろう、と

投稿者

大阪府

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