月夜の丘
小高い丘に上る
月は美しい
誰かが作った神様への贈り物みたい
いつから生えているか分からない木は
既に人格さえ備えている風体で
その根元で恋しい人を待つ
ふわふわと前髪を揺らす夜風
七千の海を知っている囁き
星と月の違いなんて知らない
あの子は私のことが好き
太陽の下を歩けないほどの白い体を
夜が隠してくれるから好き
開かれた聖書に引かれた線を
そっとなぞる
そこにあの子が込めた祈りを読むように
生まれたことをあの子は憎まない
私と違うから
私はあの子のために小川の水を飲む
やがて来る終末の噂で街は大騒ぎ
あの子はくすくす笑いながら
長いしっぽを左右にゆっくりと揺らす
世界が終わったら
きっと一緒になろう
ずっと二人で好きな映画を観よう
足音さえしない程の静寂
星は美しいのだろうか
私は本当にそんなことを思っただろうか
醜い物や汚い物が存在しないわけじゃないけど
というより自分がそうなんだけど
あの子は笑う
夜は長い
きらきらと歌う花の夢
そこにはまだ神も天使もいない頃の風景がある
帰ろうよ、とあの子は手を繋ごうとする
無意識に立ち上がってしまって
一人で帰れるよって笑い返す
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