虎の中にいた毒穴子

虎の中にいた毒穴子

俺は虎じゃなかった
最初から毒を持っていた
皮を剥がせば
そこには静かな怒りだけが残る

静かな怒りがkeyだった
俺でさえ気づかなかった
吠える声に怯えた連中は
牙の奥に潜む沈黙の刃を見なかった

皮の下の毒穴子は
動かず、騒がず、笑わず
ただ
裏切り者の足音を
静かに数えていた

最初の一刺しは
俺の名前を笑った奴に
次の毒は
家族を騙って口座を盗んだ奴に
三つ目の毒は
猫の前で嘘をついた女に

報復は静かに確実に
一滴で足りる
血は流れず証拠も残さない
もう戻れないと
思わせるだけで十分だった


誰もいない部屋で
鏡に映る自分を見て思った
これが本当に俺だったのか?

虎の皮はボロボロに裂け
中の毒穴子も
もう毒を出し尽くしていた

そのとき
黒猫が俺の足元に寄ってきた
鳴かずにただ見ていた
もう、毒はいらないだろ?
って顔で

俺は皮を焼いた
過去の名前も、裏切りの証拠も
iCloudもSIMも通話記録も
お節介な友の助言も
全部まとめて火にくべた

そして残ったのは
ただ一人の俺
毒も皮も脱ぎ捨てた
裸のまま鉛の夜を感じていた

孤独はもう自家毒で中和された
その夜 俺の中で
世界で一番静かな戦士が
ひとり
生まれ直した
光もない部屋の中で

これは一体何の儀式だ

投稿者

東京都

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