ぽつねんと

ぽつねんと
仲間たちの中で時間を見つめている
どうしよう! 語学の出席が足りないらしい
聞いたか? 流行りのバンドの新譜が出るらしい
大変だな 誰かがバイトでしくじったらしい
元気出せよ あいつが彼女と別れたらしい
静かだ じつに静かだ
そこに親しさとくだらなさの素晴らしき調和をみる
ぽつねんと

ぽつねんと
ただひとりの時間を見つめている
人の声が遠のいて 表では犬のなき声
あれをしなくちゃ これをしなくちゃ
今このときを待ってたはずなのに
息苦しいな 煙草を吸う
息苦しいな

誰かここから連れ出してくれよ
邪魔するな 僕のひとりを邪魔するな
僕のひとりは何だかんだと騒がしい

一点を凝視している
スピーカーの音量を下げる
蛍光灯が泣く
豆電球にする(真っ暗はこわいからね)
あれを忘れてた これを忘れてた
あれもしたいな これもしたいな
息苦しいな 煙草を吸う

助けてよ
反芻する言葉を飲み込む
初恋の味がする
どうか内々に願いますよ

目を閉じて漂う ぽつねんと
すべてに漂う ぽつねんと
それぞれの時間たちが走る
表情をつくれずに僕がいる
ぽつねんと

投稿者

千葉県

コメント

  1. 「ぽつねん」という言葉が持つ面白さ(シニフィエ)に気付いた時点で、この詩はすでに完成していたのかもしれません。

  2. トノモトショウさん、まさにその通りの経緯で生まれた詩です。18,9歳頃だろうか。それが今手元に残してあることも自分で驚きなんすけど。

  3. ぽつねん、は孤独もあるけどどこか超越した無我、不惑も感じるんですよね。あとユーモラスも。

  4. 王殺しさん、そうなんですよね。言葉自体が可愛らしいし、オノマトペとも少し違う感じが気に入りまして。詩人的には「み〜つけた」と思ったのを覚えています。

  5. ぽつねんと、を全部削除して読んでも、作品としてきちんと成立しているんです。でも、きりりとした痛みが漂うんですね。ぽつねんと、を入れることで、その痛みが柔らかなペーソスにふくらんでいくのだな、とあらためて思いました。

  6. 長谷川さん、そんな読み方もしてくれたんですね、ありがとうございます。
    ペーソスかぁ、なんか嬉しいなぁ。

  7. 若い記憶や気持ちが、今の自分に悪戯というかちょっかいをかけてきているように読みました。
    ひとりの時間を見つめているのは両者だったりするのでしょうか。
    語感も良かったです!

  8. たちまこさん、素敵な読み方をしてもらえて嬉しいです。
    当時の自分の言葉を今の年齢で読むと違った感覚がありますね。
    リアルでは若かりし頃の自分の言葉が今の自分に牙を剥くことは多々ありますが、うまいこと寝かしつけております。

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