ヴィヨンの橋影

ガス燈の灯る、
光の街は
地図にない
ヴィヨンの橋影が
夜の流れに
揺らめいている

街行く人も
名を伏せた仮面のまま、
濡れた石畳の道を
忙しく
通り過ぎた

裏通りの女も、消えた

卑屈な笑みと、
すぐに始まる指の動作、
獣じみた呻き声と声の芝居、
壊れた床が愉快に軋んだ

海へと辿りつくまでに、
忘却の営みが沈む
清純も罪の穢れもなく、
祈りも、
邪な行いも、
ともに川底へ積もった

背く悦びは、
秘かに続いていた

なにも今さら、
咎めることはない
殺しも、
姦淫も、
つかの間にすぎない

太っちょの旦那、
さあ、早く来なよ

灯りに群がる
蛾の羽撃き、
窓には船を漕ぐ、
影絵のふたり

川べりの死体、
ヴィヨンの橋影に
声も揺れている

投稿者

大阪府

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