運河跡

運河跡

ある年齢を過ぎると
男は
自慢話を語るものと
遺言を語るものに
分かれるという

そんなことを
ある作家が書いていた。

馬鹿いうな。

自慢など語りたくないし
遺言も遺したくない
生きた証もいらない。

  *

早春の匂いを嗅ぎに
生まれ育った町の
運河跡を歩く。

追憶は
いくつもの工場風景と被さり
私は、匂い、そのものになる。
澱んでいく。
柔かくなっていく。

もう、どこにもいない。

投稿者

東京都

コメント

  1. 最初の二択はそうなのかよと思ったが、詩人はもっと静かに密やかにおさらばすればいいのだな。好きな詩です。

  2. 王殺しさん
    川崎の、工業地帯に近い下町で生まれ育ちました。この界隈で、そっと、消えてしまえたならいいかな、と思っています。

  3. 生きた証は欲しいかもと思いかけたが、自分が?誰のために?と思ったらやはりどうでもよくなった。
    そうやっていろんなものが良い意味でどうでもよくなって行った先で僕も柔らかくなりたい。

  4. えっと、最初のは誰が言ったんだろ?北方謙三かな? すみません、勝手なイメージです。ふと錆びた空気と風と匂いを感じました。

  5. あぶくもさん
    自分の痕跡を、すべて消し去って、それからいなくなりたいと思います。私も、「ある年齢」を過ぎてしまったので、そろそろ身支度をしないと。…何だか、暗い話ですみません。

  6. timoleonさん
    北方さんではございません。でも、北方さんっぽい感じあるかもしれませんね。
    そうなんです。錆色というのかな、当時の川崎下町は、そういう空気でした。その風の中に溶けていけたら本望です。

  7. 詩人は風になりたいという人が多いかも…自分比…ですが。
    写真から感じるものと詩から感じるものが調和していてすごいなぁと思います。
    そして読み手に委ねてくれる余白のような寛容さを感じました。

  8. たちばなまこと/mさん
    詩人は、風なのかもしれませんね。だから、私も詩を書いているのかな。余白を感じていただいたこと、嬉しく思います。余白というものを、あらためて考えています。

  9. 子どもは生命力があるから大人が思うほど悩んでいないんだと
    川っぷちの煙突だらけの町のなかをたくましく生きている過去
    を作品のなかから感じます。子どもにとっては生きている世界
    が全てなわけですからね。

  10. 足立らどみさん
    ふるさと、という歌の歌詞とは対極にある故郷?ですが、子供は案外たくましいものです。当時、工場街をやんちゃに走りまわっていました。歳をとっても、…尚のこと、故郷ですね。

  11. 構成について特に考えさせられました。アスタリスクによって前半と後半を分けることで、連結が無くなって別々の詩のようになってしまうのに、それを敢えて行いながら、全体として一つの詩として提示しているところが面白いし、何度も眺めているとやはり*で分けることで良い味が出ていると思いました。

  12. たかぼさん
    後半のほうの詩が、先に出来ていて、そのまま放っておいたんです。少し経過があり、作家の言葉に憤慨しました。で、結果的につながってしまった、…という感じですね。アスタリスクは、普段、詩の中ではあまり使わないのですが、この詩は、前半と後半に分けてみました。

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