街角の詩
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素描する
即興の音色で
スケッチブック
映し撮る
人生
アノニマス
名もなき人々
無名の集積を
路上の似顔絵描きのように
顔は見えないが ともかく歩み寄る
その人になる その人の一番美しい顔
懸命に生きる人たち
無名の努力を掬い上げる
台所も、工事現場も、清掃される公衆トイレも、ランキングが貼り出されたりする店も、自傷するカッターも
なんだってポエジーになる
誰の人生も詩情がある
誰でも光沢を纏って生きている
そして誰もが詩を書く訳ではない
却ってその光沢は無言の美しさがある
ささやかな無言だからあどけなさが生じる
人生への懸命さの汗 色になって尊くなる
尊い色彩が無数に集束して街角ができる
街角は独りが生き続けるための糧になる
街角の詩
大切なことが宿る
夕方の黄昏時
異形の入り口
変わるのは世界じゃない
変わりゆく一日ごとの魂
変化を必要としない世界に 対峙する
心臓にひそめさせた ちっちゃなもの
ひそめさせたまま 記憶薄れて
二度と思い出せない
大切なことが宿りながら
無性に噴き出る寂しさが
なぜだろう
まるで死が追いかけてくる末期のように
何かと別れていく空気 この時間
毎日この黄昏時が来るごとに
わたしは毎日
なにと別れているのだろう
きっと大切なことは引き継がれない
明日を生きる代償と引き換えの別離
生き延びるために 生贄にされる思想
街角の詩
明日の黄昏時まで
少しだけ今日の思想が生き残れたらいい
わたしは 信じようと試みる
貧しくて ちいさくて 潤沢な光彩を
街角の詩を
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コメント
なんですか、やたらと沁みるではないですか。1連目のやさしい描写。
3連目(かしら)
“わたしは毎日
なにと別れているのだろう”
途方もない疑問が震えていて美しく。
たちまこさん、ありがとうございます。一連のところはある時思いついたことを出来るだけ詳細に思考を突き詰めて書きました。夕方の描写以降は僕が夕方が一日の中で長年ずっと一番鬱が酷いから描けたんだと思います。
ライヴ感覚というのでしょうか、そこに惹かれました。わくわくしながらも、きりりと滲む、離別、苦さ…。ラストに宿る光彩は、ちいさな救いですね。それらを、「街角」がゆっくり包み込んでいます。
長谷川さん、ありがとうございます。この詩は好きな洋楽のある曲に歌詞と関係のない日本語の詩を乗せてみる、という試みで書きました。おっしゃって頂いた詩の要素はその曲の音楽性が深く影響してます。この詩の思想のような部分は、よく考えていたことで、通院している病院で掃除をしていたおばさんを見て思いついたことでした。
なんだってポエジーになるが誰もが詩を書く訳ではないというのに考えました。
詩を書かなくてもそこに暮らしや感情がないわけではないし、もちろん悲しくて苦しいから詩があるわけでもないんだな。
詩に希望がちりばめてあって最近とくに良いですね。
王さん、ありがとうございます。物を書く人は描かれる人の人生があるから書くことができるというか、詩を読まない人たちの中にこそ詩の目線が入って行きたいというか、そんなこと考えているんですよね。僕はロックな人間なので最後は希望を歌いたいですね。