一瞬
夏、街は
もぬけの殻になった
開け放たれた窓
ラジオから流れる雑音
駅前からも公園からも坂道からも
人はいなくなった
がらんどうの街路を歩く
私もまた空っぽになっていく
視線を感じた方を見ると
今ここにいる私を
いないはずの私が
遠くから眺めている
目の前の踏切を
満員電車が通過する
街の縁に沿って走る鉄路
その先には
何もないはずだった
閃光、衝撃のようなもの
ふと我に返ると目の前には
いつもの食卓があった
飲みかけの珈琲からは
湯気が立ち上り
妻と娘が楽しそうに
夏休みの予定を話している
ほんの一瞬のできごとだった
その間、大切な何かを
聞いていた気がする
とても大切な
声みたいな何か
終わってしまった一瞬
終わることのない一瞬
コメント
大切な何か、最後の二行の締まり方がとても素敵ですね。
夏は不思議です。あの日、あの時になったする。蝉の声、青空と入道雲。