【連載詩】2. はなればなれに
若い男の人と不倫をしていた母は
父と僕を置いてどこかにいってしまった
父は料理がまったくできないが
母がいなくなってから台所に立つようになった
焦げた玉子焼きや味のしない味噌汁や
水加減の間違えたご飯を食べながら
僕はおいしいおいしいと何度も言い続けた
父はそれが嘘であると知りながら
嬉しそうにはにかんでいた
世の中には悪い嘘と良い嘘があると教えてくれたのは母だった
他人を傷つけたり苦しめるためにつく嘘は悪い
他人を思い遣ってあえて真実を語らない嘘は良い
それならば政治家がよく言う「記憶にございません」は
どちらの嘘になるのか
「原発は安心です」
「ワクチンは安全です」
(というのが嘘だとして)
その善悪の基準はどこにあるのか
母が間違っていたとまでは言わないが
もっと本質的なことを見逃していたのだと思う
嘘は自分のためにあるのだ
そしてそこに善悪があったとしても
あまり関係がないことなのかもしれない
父が作ったチャーハンは
母が作ったチャーハンとはまったくの別物で
べちょべちょのお粥みたいだった
僕はおいしいおいしいと何度も言い続けた
父を喜ばせるための嘘ではない
自分が惨めにならないための嘘だった
コメント
うんそのとーり、自分の為にもっているんだよねーそれがないとバランスよく生きていられないからね
やはり嘘は詩になる。私も間違いなくベチョベチョの炒飯を美味い美味いと言って食べるだろう。自分を喜ばせるための、あるいは惨めにならないための嘘なんて、人生そのものじゃないかと思ってしまう。そう言う意味では、私の詩なんて実話ベースのものだろうと結局全ては嘘だよねー。
父を喜ばせるための嘘ではない
自分が惨めにならないための嘘だった
自分のための嘘。納得です。
この詩には、大切な悲しみがあると感じます。
このお子さんは政治にも関心があるのだから
生き抜く力は十分に持っているとおもいます。
だから大丈夫です!大変だけどしっかりと
嘘を分けるなら恥ずかしい嘘と恥ずかしくない嘘だと思ってる。自己欺瞞してると見抜かれることほど、恥ずかしいことはない。少年は惨めにならないために美味しいと言っているんだけど、不味いけど美味しいと嘘を言ってくれてると父は捉えているので、少年は救われているよね。
うん、優しい嘘って自分を守るためのエゴなんですよね。でも、優しい嘘をつくのをやめられないのもリアルな人間の姿なのかもなあ。深かったです。続き楽しみにしてます。
>嘘は自分のためにある そこに善悪があっても関係がない
これは考えさせられました。連載の行方が楽しみです。