かまってちゃんへ

突き放す様ですまないが
あんたはもっと
花を観察した方がいい

茎が土を突き破る瞬間の
あの鈍い破裂音を
聞いたことがあるか?
種が自分を割るために
内側で爆発する小さな雷鳴を
耳の奥で拾ったことはあるか?

見られて開く花は
まるで証言するみたいに震え
ひっそりと開く花弁は
スローモーションで
独りごとをつぶやく
孤高のコメディアンヌみたいだ

雷雲雨光蒸気虫
秘められたた儀式
死体を囲む葬列のように
星の周りを花が囲む

残骸の積み重ねが
百年に一度だけ咲く竜舌蘭
その根っこには
昨日捨てられたぬくもり
誰かが捨てた
赤子の指輪が埋まってる

口づけは牙に変わり
微生物がザワッとそれを覆い
月下美人は
月を食い破ってやっと咲く

地上にはあんたがまだ知らない
毒花も笑い花も罠花もある
自分の体毛が何本生えてるか
知らないだろ?あんたは

毒花の蜜を吸って帰る蜂が
耳元で
まだ間に合うって呟く
毒花の匂いは紫外線の色をして
盲目の蝶だけが
日輪の中を舞い
甘い香りそれを知り
鱗粉を巻き散らかす

目を逸らしたまま
ここにいるよー
わかって、わかってだけじゃ
花は咲かないように出来ている
ホントは
あんたもよくわかってるだろ?

待ってくれよ神様
コンプラに引っかかるように
呟いちゃいませんぜ俺は

咲かない花は
静かに息をひそめて
あんたの夢の中でだけ
何度も咲いては枯れ
枯れては笑う

はんなりと

徒花
咲かなかった花
長く観察してたら
そんなのいっぱい見たさ

花弁の裏でだけ響く葬鐘の音
人間には聞こえないが
土が全部覚えている

棺桶に敷き詰められた花は
天国みたいな香りで
死者を黄泉の国へ連れ去る
それは朝露のようにやさしく
明日のために眠らせる

あんたの時間を全て奪う
そして奪ったまま返さない

今度は朝顔の種からやり直せ
生きたくなるまで
何度でも死ね

アディオス!

息苦しいくらいの花の世界
プライド捨てて
片足突っ込んだら
もう片方もどうぞ

投稿者

東京都

コメント

  1. 響きながら流れていくことばたちを感じました。好きな詩です。

  2. @あまね
    ありがとうございます。書いてて、どう落とすか。ちょっと難産な詩でした。

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