Polaris
こぐま座α星、ポラリス。
北極星のことだ。
深夜でも煌々と光にあふれる都会では、
目を凝らしても仄かな輝きにしか見えない。
地球からの距離はおよそ431光年。
つまり、私たちが見ているのは
431年前に北極星から放たれた輝きである。
もしかすると北極星はとっくの昔に
砕け散っているのかもしれないし、
あるいは明日の夜、見上げた空から
突然その輝きが失われるのかもしれない。
人は死んだら星になる、という
手垢まみれの陳腐なファンタジーがある。
若いころは一笑に付していたが、
ここ数年は身近な人が亡くなるたびに
その手垢まみれの陳腐なファンタジーに
リアリティに似た感覚をおぼえるようになった。
亡くなった友人や知人のSNSアカウントは
ずっとそこに残されたままで、
何年も前のとりとめのないつぶやきも
遡れば当たり前のようにそこにある。
スマホにはLINEでのやり取りも残っていて、
メッセージを送れば返事がくるかも、
なんて思ったりしてしまうほどだ。
そうやって、先立っていった人々が
生前にインターネット上に遺した
日常的なできごとの痕跡に触れるたびに、
まるで夜空の星を眺めているのに似た
奇妙な、そして切ないような気分になる。
たしかにそこにいるように見えるのに、
実際にはもう、そこにはいない。
インターネットという巨大な墓標の中の、
けっしてたどり着けない遥か遠くで
北極星のように仄かに輝き続ける。
人は死んだら星になる。
そんなセンチメンタルな戯言も
それほど悪くはない気がするのは、
自分自身が歳をとったからだろうか。
── 私の生きる限りは私の中に亡びることがないのである。
(坂口安吾『長島の死』より)
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