籠の鳥
その人はその郭では
まあまあというか
別格に優秀だった
外見だけあればなんとかなると思われがちな芸の世界だけど
一歩踏みいれば
そんなに単純な作りでないことが分かる
その人は客と寝るのが嫌いだと言った
何も憚らず
物書き机を持っているのもひとりだけ
「芸妓が男を知らないなんて恥だろ」
私が俯いていると
そう言って笑う
彼女は家族が故郷に居ると言った
その金で仕送りをしているという
「泣かないでくれよ、自分で出たんだ」
売られてきたことを幸せだと思った
自分の足で
ここまで歩いてきた彼女の孤独を思うと
文字が家族の誰にも読めなかった
それでも書いていた
金に添えて
彼女は部屋からも出たがらない
客は引っ切り無しだったが
断ることさえあった、さすがに叱られていたけれど
「いつかここで一番の女になれよ」
まっすぐな目で
別段不思議もなさそうに真面目に言う
「人間にも貴賤はあるけどさ」
窓ガラスを目で辿りながら、彼女は何か呟くように話した
「それが全てじゃない」
身請けされるという噂を聞いた
どうして今になって、と思ったが
待っている人に頷いたのだ、多分、やっと
「俺、この仕事嫌いじゃない」
右手と左手の指をきれいに合わせて
長さを比べながら
彼女は少しだけ頬を歪めて泣いた
コメント