往く海の歌

往く海の歌として……
わたしは、天蓋からの声にこたえる。

それは、まっすぐにそそぎこまれる、
まなざしの、あるいはこころねの……

不断の、
結晶化する
営みなのだから?

ここで折れる……なら
わたしは即座に、かつ
大胆にまぬがれて、時
の向こうがわへと、放り出されるのだろう?

あっ、
と、
海が叫んだ。その時に、幾千というざわめきが、
両耳に典雅な反響をおこし、みちびき、
口吻のなかに飲み込まれる──のだ。

往く海は、
海として、
あり
また……何物でもないのだから、
天は差配する、神は差配しない……
いくつもの骰子が、
ころがり落ちる界隈の声音。

ふたたび明けを取り戻そうとする、
必死の形相の海のサイレンたち……が、
ひとつの答えとして、
歌う。

その歌を……聞け。
その歌を……抱け。
その歌を……繰り返すならば、
往く海は、
海として去り、
また平和な祈りのなかで眠りにつく。

……

往く海を、抱くのだ。

往く海と眠るのだ。

投稿者

宮城県

コメント

  1. うろ覚えなんですが、サイレンて、ギリシア神話の?サイレンのことでしょうか。

    往く海を、抱くのだ。

    往く海と眠るのだ。
    最初からずっと来て、最後のこの二行に感動しました。

  2. @こしごえ
    様。はい。セイレーンですね。昔の日本語ではサイレンとも言いました。まあ、ちょっと古い呼び方。

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