葡萄酒

薄ぼんやりとした景色の中に
色とりどりの色が見える
中でも赤紫色が綺麗に見える
それはついほんの数日前の
数年前にあなたがこの場所で
笑いながら飲んでいた
葡萄酒の色

風に揉まれて
夢に吹かれて
旅立とうとしたあなたは
顔を仄かに赤らめながら飲み干した
お気に入りの葡萄酒を

色あせてしまった景色の中に
なんの色もありはしなかった
赤紫色も滲んでしまった
それは絵画の下書きの様で
パレットは床に置かれたままで
乱暴に殴り描かれた
葡萄酒の色

あなたは明日を
私はグラスを
見つめ続けて遂に
小さな段差に躓いて手を離してしまった
葡萄酒色の空の下で

生まれたことを
生きてきたことを
呪い続けた私は
あなたが残した
葡萄酒の色と香りに苛まれながら
今日も生きている

あなたと私
取り巻いている
紅い紅い渦が
私とあなたを酔わせていたの
だからあれは全て
夢の様だったの

投稿者

奈良県

コメント

  1. それはついほんの数日前の
    数年前にあなたがこの場所で
    笑いながら飲んでいた
    葡萄酒の色

    この箇所に惹かれました。数日前と、数年前の、時の隔たり、そして葡萄酒の彩色が、映像的に伝わってきます。「あなた」の息遣いも。

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