背中

三叉路の交差点改良が終わり
夏はまだ蒸し暑かった
誰かの投げた石が
東西に流れる二級河川の水面に
小さな波紋を描く
あっ、魚
勘違いした人が指を差して
本当だ
と、隣の人が相槌を打つ

記念病院の裏手の老夫婦は
長男の新居へと引っ越した
かつて二人が作った家には
風が隙間なく住みついている
世界の至る所に午後があるのなら
今この街にもありふれた
そのひとつが落ちていた

虫かごと網を持った少年が
ビルディングしかない遥か遠く
都会の方へと走っていく
その背中には
物語の続きのような
カブトムシがしがみついている

投稿者

コメント

  1. こんにちは。
    それぞれの場面に居る背中で静かに起き続けている情景を感じました。
    当人たちには見えないけど、風はえんぴつを泳がせながらスケッチしているのだなと。

  2. @kフウ
    kフウさん、コメントありがとうございます。背中、自分では見えないから、人からどう見えるのか、いつも意識するようにしています。凛とした背中は美しく見えます。その一方で、一見丸まって傾いているような背中にも、それはそれでまた美しい背中もあるように感じます。
    私の背中をどのようにスケッチされているのか、風に任せようと思います。

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