カバン

部屋の隅
旅立つことを
忘れたカバンが
涙をこらえ
青く連なる山脈が恋しくて
白浪寄せる海に憧れて
まだ見ぬ景色を思い募り
それでも旅立てず
共に歩んだ持ち主を失くし
この部屋で
行き場を失い
 
窓の外に大きな三日月
赤く照らされた部屋は
現在に囚われ
日々に占められ
目まぐるしく変わり続けても
傍らのカバンだけは
ホコリを集め
 
静かに嗚咽を漏らし
 
電車に乗って海に行こうという約束も
飛行機に乗ってまだ見ぬ国へ行こうという約束も
果たされないままになり
 
残された記憶も色褪せて
 
カバンのポケットに
忘れられた切符は
地球行き

投稿者

愛知県

コメント

  1. カバンの持ち主さんは
    銀河に居るのかな、と思いました。きっとうっかり忘れ物しちゃったんですね。
    ひきはなされたカバンの途方もないかなしみと
    ときの無常さをうまく表していて、じんとしました。

  2. @kフウ さん、コメントありがとうございます。
    元は「仕事に追われて旅行できない持ち主」だったのが、推敲しているうちに遠くへ姿を消してしまい、カバンに切符が残った不思議。読んでいただいてありがとうございます。^^

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