鈴虫

ご飯を茶碗によそり
雨が言葉になると
薄暗い都電は
速度を少し落とした
アナログの路面
壊れた手続きの
続き
途中、メキシコとの国境で
和歌山県の破片を拾う
和歌山県になりたい
そんな誰かの古い願い
いつか諦めた願い
どこにも進まない部屋の窓から
ご飯が一粒一粒こぼれ落ちる
外はきっと
約束された幸せで
満たされている
終点の駅が近づき
人々の足音に遅れて
鈴虫がやってくる

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コメント

  1. >どこにも進まない部屋の窓から
    からラストの締めまでが特にいいな、と思いました

  2. うちでのごはん粒(声)の団らんと、その外に家路へとひとたちが約束を持って歩いている
    どちらも続くと思っていることに今日も向かっているように感じました。

    鳴いてくれる鈴虫もあったかいカプセルに入って春の風景まで
    みててほしいなあ、なんて。

  3. @雨音陽炎
    雨音陽炎さん、コメントありがとうございます。
    どこにも進まない毎日ですが、たぶん国境を越えても心は留まり続ける気がしています。

  4. @kフウ
    kフウさん、コメントありがとうございます。生存競争の中で自分たちの季節を見つけた鈴虫には春の景色がどのように見えるのでしょうか。桜の花びらの上で、どんな音色を響かせるのでしょうか。
    もしかしたら、かつてそんな時代があったのかもしれませんね。

  5. 鈴虫から和歌山県へといつか思いは飛んで、和歌山になりたかった人、なんていう感慨があふれてくる……こういう部分、すこし新井豊美の「いすろまにあ」なんかも連想します。この詩に感じる背景は、透き通った透明な白紙、といった感じのもので、読む目線の先に瞳がインクのように吸い込まれていく。そうして、最後にぽんとおかれる「鈴虫」。感慨が一行で「じゃん」とオーケストラの和音を鳴らしている感じ。。……と、よく分からない感想を書いてみました。

  6. @大町綾音
    大町綾音さん、コメントありがとうございます。

    読む目線の先に瞳がインクのように吸い込まれていく

    何かとても素敵なコメント。最後の、じゃん、もいいなあ、、、

    良いインスピレーションいただいたので、今後、どこかで反映されていくと思います。ありがとうございました。

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