拝啓、中島みゆき様 vol.9 夜会Vol.20 リトル・トーキョー
今回の夜会はコメディー要素強めだなと思ったけど
いやいやそれは全くの勘違い 
そこは流石の夜会 
おそらく一番悲しく、そして考えさせられる物語かもしれない 
舞台は北海道のとあるホテル兼バー、リトル・トーキョー 
来る極寒の季節に備え、休業のための準備をしているところから物語は始まる 
従業員たちが忙しく働いている中、形ばかりの支配人であるアンヌはどこか退屈そう 
帳簿の締めを頼まれるも、わたしじゃ解らないから~、ふうさんに云って~、と
子どもみたいに云うも、自分で電話してくれと受話器を渡されてしまう 
アンヌは夫であるふうさんのことをとても愛しているのに、
なぜかうまく話しをすることができない 
緊張してしどろもどろになってしまう 
それは、ふうさんには別に好きな女性がいて、だからほとんど相手にされておらず、
唯一の楽しみは山の奥に暮らす山犬とその子どもたちを見守ることくらい 
帰る場所はあるのに、帰ってきてくれない
帰り方を忘れてしまったのかしら
どこかで迷っているのじゃないかしら
わたしはいつまでも、この場所でふうさんの帰りを待っているのに
馴染みの業者であるおいちゃんが、野菜やら肉やらをどっさり抱えてやってくる
おいちゃんはもともとは東京でロック歌手として結構売れていたらしいのだが
父親が病で倒れたために、北海道に戻ってきていた
リトル・トーキョーには特設ステージが設けられており
時々おいちゃんは、そこでギター弾きながら歌を披露したりしていた
おいちゃんとともに働いている、姉さん被りの快活そうな女性が、ふっとアンヌに
「お体の具合はいかがですか? 頭痛がしたりめまいがしたりとかないですか?」と
妙なことを質問
体になんの異常もないアンヌは、少しいぶかし気に「何でもないですよ」と返答
そんな中、忍び足でそっと入ってくる、ちょっと派手な格好をした女性が
それは、長いことずっと行方不明だったアンヌのお姉さんだった
久しぶりの再会に、「借金でもして追われて逃げてきたの?」とかますアンヌ
お金なら沢山あるの、一発当てちゃってね、といたずらっぽく笑う姉
その大金を狙って追われていて、ここなら安心かと思い帰ってきたとのこと
そこに荷物を運び終えて戻ってくるおいちゃんと姉さん被りの女性が入ってくる
最初は誰だか解らなかった姉
だが、おいちゃんはすぐにアンヌの姉であることが解る
久しぶりの再会に束の間喜びムードが漂い、
おいちゃんがどさくさに紛れてつい、姉のことがずっと好きだった、と白状したり
また、姉さん被りの女性を見た瞬間、何か感じたのか姉は
「あの人、ただ者じゃないでしょ 日舞かなにかの師範で、
それも相当の上級者よ」と
この姉、ひとを見る洞察力はかなり鋭い
懐かしい人との再会にみんな笑い合って、束の間、平和な空気が流れる
12月24日クリスマスイブの夜
山に密猟者が入り、銃弾の音が響き渡る 
山犬たちのことが心配になったアンヌは猛吹雪の中、
外套も羽織らず急いで外へと飛び出してゆく 
アンヌが飛び出していったすぐあとに、山は雪崩に襲われてしまう
アンヌは帰ってこない
何日か経って、みんなもうダメかもと諦めかけていると、
突然アンヌが一匹の仔犬を連れて戻ってくる 
この時の衣装が飛び出していった時の赤いドレスから白のドレスに変わってるんだけど、
それにはちゃんと意味があったことをクライマックスで知ることになる 
アンヌは云う この子をしばらくお世話しようと思うと 
仔犬の名は小雪 真っ白なとてもきれいな毛並みをした、
お尻のあたりに雪の結晶のような模様のある可愛らしい仔犬だった
人懐っこい小雪はすぐに人間に懐くようになり
みんなに愛され、可愛がられた
場所は変わってある高級料亭の一室 
障子の向こうでアンヌの夫とその兄というのがなにやら密談している様子
不動産業を営んでいるという兄は強欲で有名であり
自分の利益のためならなんでもするという悪行ぶり
リトル・トーキョーと周辺の領地をすべて手に入れたい兄は、
アンヌ暗殺計画を持ちかける 
なに、ちょっとずつ毒を盛ればいいだけだし
毒は検出されないから罪に問われる心配もない、と
もちろん夫はそんなことは出来ないと頑なに断るが、
身寄りのないお前を引き取ってやったのは一体誰だと思ってる
嫌なら俺がやるまでだ、
あの姉妹の親たちを始末したときのように、と脅しをかける
アンヌ姉妹の両親を殺し、次は事実上のリトル・トーキョーオーナーであるアンヌを
殺害しようとしていた
物語序盤で、姉さん被りの女性に体調のことなどを訊かれていたのだけれど
ここでひとつ話が繋がっていく
兄役を演じたのは泉谷しげる 
声だけ出演だが、はまり役だ
長い冬が終わり、リトル・トーキョーも再び開業する時期が来た頃
またしても山で雪崩が起きる
おそらくアンヌの夫、ふうさんの兄の仕業
成長した仔犬、小雪は哀しい声で遠吠えを続ける 
アンヌはそろそろ手放す時が来たと、小雪に山へ帰りなさいと諭す 
小雪もアンヌの気持ちを理解し山へ走り出してゆく 
また、実はあのクリスマスイブの夜、
雪崩にあったアンヌは死亡していた、という事実を知らされる
アンヌはピンピンしてすぐそばにいるのに
ここにいるじゃない、と誰もが信じられない様子だったが
雪の中からは三匹の山犬と女性の死体が発見された、
いなくなったとき来ていた赤いドレスからも、アンヌで間違いない、と
あゝそうか、アンヌはただ一匹生き残った小さな仔犬の小雪を助けるために
母犬に転生していた、というわけなのだ
アンヌはずっと、この土地の自然と動物たちを護りたいと思っていた
なので夫の兄の陰謀から護るため、リトル・トーキョーを手放し
自然保護団体にそのお金を寄付していた
また、夫のことはずっと以前から好きだったこと
真っ白い虹を見たことがあると
誰も信じてくれなかった自分の話を
信じてくれた唯一の人だったから 
いくら好きでも、愛していても、決して届いてくれない想いだったけれど
わたしは死んだの
だからもう自由になっていいのよ、あなたの一番好きな人のところへ行ってあげて
と、突き放すように背中を押し、静かに去っていく 
なんて切ない、なんて哀しい、そして慈愛に満ちた主人公
コメディーなんてとんでもない
夜会、侮るなかれ
ドレスの白は死を意味していた
これまで何度も、輪廻転生をテーマに物語が紡がれてきたけれど
命を張ってまでも小雪を、自然を護ろうとしたアンヌ
人間の勝手で自然を壊され、奪われ、失っていく命があるということ
人間だけが生きていい世界なんかじゃない
虫もけものも魚も、自然もすべてこの世界に生きている
だから、決して驕ってはいけないのだ
わたしたち人間も、その自然の中で生かされているのだから
また、帰れない者たちを度々テーマに歌ってきたみゆき
リトル・トーキョーでは、帰れない事情があるのなら
帰れる場所を作ってしまえばいいじゃないかと
いつでも、ここで待っているから
帰りたくなったらいつでもここへ帰ってくればいいよ、と歌っている
みゆきなりの、故郷だけが帰る場所じゃないという
ひとつの到達点というか、答えなのかもしれないと思った
今回の夜会は既存の曲を取り入れたり、ダンスを取り入れたりと
原点回帰のようでもあり、夜会集大成という感じもしてくる
ゲストに渡辺真知子や泉谷しげるが出演したり
わたし、渡辺真知子ってみゆきより年上だと思っていたけど
実は年下で、デビューもちょっと遅かったんだね、知らなかったよ
おいちゃん役の石田匠さん、橋の下のアルカディアのときよりなんか生き生きして
楽しそうだったな
小雪を演じたのは、おなじみの香坂千晶さんで
劇場で遠目で観たとき、子どもが出てきた!と思ったほど
いやまさかそんなわけないとよくよく見たら香坂さんだった 
子どもにもなれてしまうなんざ、まったくもって凄い女優さん
中島みゆきの体調などもあるかもですが
またやってほしいなあ、夜会
そしたら絶対観に行く
勿論チケットが取れたらの話だけど

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