いつか報われるはずの、いつか(悩み多き感情たちの詩 その7)

滅多に弱音を吐いたりしない我慢くんは
このところ少し様子が変でした

今まで無遅刻無欠席で 無断で休むなんてなかったのに
度々遅刻したり休んだりすることが多くなりました

いつもどこか上の空で 生返事ばかり

ある日心配性センパイが声を掛けました
我慢くん たまには帰りにごはんでも食べに行かないか

我慢くんは本当はすぐに帰って休みたかったのだけど
せっかく誘ってもらって断るのも悪い気がして
一緒に行くことにしました

センパイ行きつけの焼き鳥屋さんへ
カウンター席に座ると まずは生ビールを
我慢くんはそれを一気に飲み干しました
普段は摂生してあまり飲まないようにしていたのに
この日の我慢くんは やはりどこか様子が変でした

酔が回ってきたのか 徐ろに
センパイ ボクってつくづくつまらない漢なんですよ
ボクはね モノゴコロついたときからずっと
我慢しなさい 我慢しなさい
そうすればいつか報われる日が来るから
そう云われて生きてきたんですよ
友だちが戦隊モノのおもちゃで遊んでいても
ドラクエやファイナルファンタジーのソフトを買うために
夜から並んだなんてクラスが盛り上がっていても
本当はコーラとかファンタとか飲みたかったけど
健康に悪いから たまにしか飲まなかったし
好きな娘がいても 友だちもそのコのことが好きだったから
云わないで応援してきたし
高校も大学も 本当は行きたいところがあったけど
将来就職に有利そうな学校に進んで
就職にしたってそうですよ

センパイ ボクはね
いっつも我慢ばっかりしてきました
それでいいと思ってたんです
きっといつか いつか必ず
報われる日が来るんだから
全部が報われる日がってね

彼女がね あゝ驚きましたか
こんなボクだって彼女くらいいますよ
半年前に出会ったんですけどね
ホントにいい娘なんですよ
いい娘だと 思ってたんです

でもこの前偶然聞いちゃったんですよ
誰かと電話で話してるのを

「えーッ、別に付き合ってるとかそういうんじゃないんだよねぇ
 優しいしいい人だとは思うけどねぇ
 それに何でも買ってくれるし 何でもいいよいいよって
 要するに便利なATMみたいな? アハハハハハ」

なんかそれ聞いたら 急にバカバカしくなってしまって
ボクはずっと 彼女が喜んでくれてるとばかり思っていたし
彼女が笑ってくれるならと どんなワガママも受け入れてきたんです

センパイ センパイ
ボクの生き方って間違ってるんですか
ボクは一体何のために我慢し続けてきたんでしょうか

ただ 報われる日とやらを信じて
信じ続けてここまでやってきたのに

何故にこんなにも軽く扱われなきゃならないんですか
ワガママ放題生きてる人間のほうが
ボクよりずっとシアワセそうに見えるのはどうしてですか

あゝもうバカバカしい
やめだやめだ やめにしよう
今日はとことん飲みましょう
酔いつぶれて倒れこんだってかまわない
浴びるほどに飲み明かしましょう

飲みながら我慢くんは 泣いていました
ひと目も憚らずに おいおいおいおいと
子どものように泣き続けていました

心配性センパイは我慢くんの背中を擦り続け
我慢くんは自分を抑え込みすぎだったんだよ
いつも自分より他人のことを優先して場の空気読んでさ
それは我慢くんの美点でもあるし いいところだけど

いつもいつも そんなに我慢ばかりしなくてもいいんだよ
ときにはワガママを云ったっていいんだ
イヤなものはイヤだって
欲しいものは欲しいって

いつやってくるんだかわからないそのいつかを待つより
いまあるその気持ちを 自分自身を
もっと大事にしていいんだよ

我慢くんをこんなに追い詰めてしまっていたのは
僕らにも責任があるのかもしれないね
申し訳なかったです
本当に 本当にごめんなさい

飲もうぜ今夜は
付き合うよとことん

もっと聞かせてよ 
もっともっと知りたいよ
我慢くんのこと 

 

投稿者

東京都

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