帰還

元々は、仏蘭西の大寺院にあった
19世紀、修復作業の折に盗まれたものを
旧大名、とある侯爵が訪仏の折に手に入れ
海を渡り、古い石造りの洋館へと辿り着く
明治から平成を経て、そして令和へ
持ち主は、幾人幾度となく変移するも
石像は、この館を守り続けてきた

   ✳

高さ2mほど
ガーゴイルの石像がある
古びた石造りの洋館、屋根の中央に
船首像のように聳え立っている

深夜、雷と激しい雨が降る
雷鳴と、その後の静寂
雨音、そして落雷

ガーゴイルの石像は
煙を纏わせている
雨音
やがて
石像の表面全てに、ひびが入る

表面の石は砕け始める
黒光りするガーゴイルの姿が現れた

棒立ちの姿勢のまま立ちすくむ
両眼が開き、紅く光る

匂いを嗅ぐ
ここは生まれた地ではない

沈黙の後
ガーゴイルは、両翼を
ゆっくりと開きだす
5mに及ぶ翼を大空に広げる

無言のまま
生まれた地である西方、巴里の方角を見る
静寂
軽く頷いたような仕草の後
ガーゴイルは
ゆっくりと翼を動かす

ゆらりと
ガーゴイルは宙に浮かぶ

バサッ、バサッと翼の音を鳴らしながら
暗い、暗い海へと
飛び去っていった

雨は上がり
三日月の光る、穏やかな海の上を
ガーゴイルは故郷へと戻っていく

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

古代エジプトでは雨樋として造られ
石像から出る水は宗教的な意味を持つ
古代ギリシアでの姿は動物となり
14世紀頃から今の形へ、やがて衰退する
古い歴史を持つガーゴイルではあるが
今となっては、遺物として苔生している

投稿者

大阪府

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