
あの人と菫と
そよ風を纏っているように
あの人がやって来ると
膠着した空気が動き出す
私たちが手を拱いていた
化石化して直立したままの
横着で頑ななロボット
あの人もまずはゼンマイを巻いてみたが
びくともしないロボットに
眉を少しそびやかせ
両手を腰についてしばし黙考
ゼンマイの故障でないとすると
意識的情緒的作用であるから
問題は甚だ難しい
動きたくないものを動かすなど
あの人をしても
てこずるだろうと思っていたが
目元に笑みを湛えながら
上着のボタン穴にさしていた菫を
あの人は石畳に片膝をついて
U字型の手に器用に持たせてやった
ロボットはご機嫌に歩行開始!
菫の花を片手に
ユートピアへの旅を再開
少し先で待っていた
同じ型のロボットたちに合流したが
菫を持つ手を見紛うことはない
あの人は上着の裾を風に翻し
去り行くロボットの後ろ姿を
西日に照り輝く真鍮に目をすがめながら
いつまでも見送っている
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