冬夜
こぉこぉと、風の音がする。
冷たくて素っ気ない風が、ホームのすき間を通り抜ける音だ。
コートの中の体温を抱きしめるようにして身を竦める。
寒いな、なんて思う頃にはもう冬がやって来ていて
気付けば一年も終わりそうになっていた。
なんだか無性に冷たいものが飲みたくて、自販機でサイダーを買った。
手にしたペットボトルは当たり前だけれど冷え切っていて
指先に染みて痛かった。
それは夏の缶ジュースとは全く異なっていて
その対義語とも呼べる様な、他人のような優しさを持ち合わせていた。
ベンチに浅く腰掛けて、小気味いい音を立てて開いたボトルの中身を流し込む。
うっすらと柑橘の味のする炭酸は、舌をほのかに痺れさせた。
冷たくなりすぎて、風が当たってももう寒くない。
ちびちびと、まるで酒か何かのようにサイダーをあおる。
昔は、アルコールなんてなくても
コーラと人生だけで酔えていた。
柚か蜜柑か判別のつかない香りの液体を、一気に酸素ごと飲み込んだ。
アナウンスが流れる。
電車は予定時刻にホームに滑り込んで来る。
急いで飲み干したボトルをゴミ箱に放り込めば、底の方で間抜けな音がした。
車両のドアの前に立ったところで、喉の奥がじりじりと温かいことに気が付いた。
炭酸が、そっと底の方でまだ燻っているんだろう。
きっとまだ何処かで、存在しているんだろう。
コメント