メリークリスマス、ゆういち
百合を初めて知ったのは、
インターネットの掲示板だった。
アダルトサイトを検索して辿り着いた素人画像の投稿掲示板に、
なんでもない普通の女の子の、記録のようなものが書いてあったのだ。
つまり、”とある女の子を監視している”記録が。
その子の直近の情報が、
いくぶんぼかして書かれてはいたが、
自分の身の回りに起きた出来事とダブること、
いくぶんぼかされてはいるが、
盗撮されたとおぼしき画像が百合に瓜二つだということから、
この被害者が百合だと特定するのは簡単だった。
ゆういちは、その尻馬に乗っかることにした。
今日は百合にこんなことを言おう。
こんなことをしてやろう。
ゆういちの行動の結果も百合の(当たり前のようにハッキングされている)本人のパソコン上の日記にも、
その闇サイトの日記にも、フィードバックされるのが可笑しかったのだ。
いわばそれは小さな祭りだった。
きっかけは、百合がゆういち以外の男に告白した、ということにムカついたからだった。
別に百合のことは好きでもなんでもなかったが、「障がい者」が恋をすることが癪に障った。
それも、俺じゃない相手に。
百合の日記には、
いくぶんぼかされてはいるが、
ゆういちへの恋心を吐露するようなものが時々出てきた。
決して、告白した相手のことは書かない。
というよりも、本当にはなんとも思っていないのではないか、と、
ゆういちはぼんやりと百合の心を想像した。
なぜ、俺に告白しないのだろう。
百合の心が分からない。
それは、この観察記録を続けている匿名の投稿者も同じ気持ちらしい。
この観察記録が始まった頃、この男は実験をしようと思ったのだ。
つまり、百合に、百合以外誰にも知られないように性的ないたずらをして、その後どうなるかを、生活ごと監視してやろうと。
結果、右を向いても左を向いても百合の周りに現れるのは変態ばかりになった。
観察記録が闇に流れていたからではなかった。百合がそんなトラウマを抱えていることなど知るよしもない筈の普通の連中が、百合の前ではセクハラを連発するようになる。そのくだりを読むのは長くて骨が折れたし、他人のことだったから興味も湧かなかったが、
百合という玩具を見付けてくれたことには感謝しかなかった。
百合は、なぜか投稿者とゆういちのしていることに気がついているようだった。時折カメラ目線になり、話していることはゆういちを相手にしているとしか思えない時があり、そして大概において心底どうでもよさそうに彼らのフィードバックに返事をする。
どうでもいいのだろう。
糞みたいなエロSSとか、ストックホルム症候群を積極的に起こしているとしか思えないような愛の告白を、自分からスマホに打ち込んで読ませるのだ。
ゆういちは、百合がどうして自分を好きになったのか、よく分からなかった。
そのエロトークが、馬鹿に出来ないほど面白かったから。
雑草を取り出して、俺の名前を言った、というくだりが、掲示板に書かれることはなかった。
ただひとこと、
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