鰹節合戦

鰹節合戦

世にも稀有なる
一本の鰹節のために
どれ程の猫が
人生を棒に振ったことか
黄金よりも
金剛石よりも
貴重なるその鰹節
今、
その稀有なる鰹節を
手中に収めているのは
城跡をねぐらとする縞猫
寝る時でさえしっぽの下に敷いていた
にゃあにゃあ

幸福な鰹節の夢に沈み込んだ
この瞬間、
山茶花横納屋住まいの
茶猫がまんまと盗み取った
茶猫は稀有なる鰹節を咥え
三日月に照る瓦屋根をつたい走る
にゃあにゃあ

やや! 追手が掛かった
迫り来るは
城跡空堀に住まう足軽猫数十匹
茶猫は駆けに駆けて
川面見下ろす橋の上にて足を止めた
右からも左からもにじりよる追手
窮地の茶猫はにゃーと悲鳴を上げ
鰹節を万有引力に委ねた
ぽちゃん

気の抜けた音が消えるや
水面の波紋も静まった
動転した足軽猫らは
鰹節の残像を見出そうと
橋から身を乗り出す
川面に輝くは三日月の影
猫たちは見誤った
水面に映える三日月を
稀有なる鰹節と勘違いした
みゃあみゃあ

派手にしぶきを上げ
次々飛び込んで行く足軽猫
水面の三日月は銀色の粒となって
さざ波に溶け込んだ
消えた鰹節を探し回る猫たち
しっぽで跳ね上げられる水しぶき
川面は動乱と化した
その間に、
稀有なる鰹節は川下へと流れ去る

全てを見届けしは天の三日月のみ

投稿者

大阪府

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