鯨の言葉
世界が鯨に飲み込まれ
瞑目の街に雨が降り出し
わたしは全ての窓を急いで閉じて回る
聖なる故宮の番人
急いで黙った深夜のマネキン
その間を歩く老いた警備員
鯨の豊かな唾液が
無数の傷を苔が満ちるように潤し
言葉が言葉を呼び寄せ
感情が感情を蘇生させ
わたしは伝承の海へ沈んで行く
手足を神楽のように動かしながら
世界が眠ったままなら
王の気紛れで収監された徴税人は
箒の柄の毛羽立ちを生涯数え
月に数日だけ
坂の上から母の名を呼び続ける
忘れないために
世界は光に溢れる
そう 断頭台のように
健やかな人のために
予め決められた洪水のように
鯨はわたしを浅瀬で吐き出し
頁の裏側に消える
私は紫外線で十分に火の通った砂を
引きずりながら歩きだす
歩きだして 止まってみて
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