被害者の微笑み

ココアを飲んだ
ほっとした
でも暖かくなったのは息と目の前を燃え盛る家だけで
誰もほっとしていない
誰の家なんだろうな、家族は無事なのかな
なんて冗談を吐きながらポケットに入ってた500円玉を握りしめ自販機のココアを買った
これが胃に入る最後の飲み物なんだろうな

なんで自分なんだろう
ただ自販機に行ってただけなのにな
いますぐ家の中で寝ている祖母を助けに行かなきゃって思いながら暖かなココアを飲んでいる

「火事だ火事だ」って周りは叫んでいるのに
誰1人とも消防団を呼ぼうとしてない
本当はどうでもいいんだろうな
中で祖母が寝ている
今までの介護のことを考えると
自分はなんて心が狭い生き物なんだと足が止まる
涙が止まらなくなってくる
またココアを飲んだ
落ち着きを取り戻そうとする
心の中は焦っている
でもその焦りも心配ないように思える

15分後消防車が来た
燃え盛る家に大量の水を噴射している
家はもう焼け焦げた柱のみ
もう祖母は生きてないだろう
もう祖母の声は聞けないだろう
でも心のどこかではほっとしている
もう世話しなくてもいいんだ
もう物忘れされる被害者にならなくていいんだ

だから私はニコリとした

投稿者

コメント

  1. 初めまして。
    同じ想いで暮らしていた時期があります。
    自分にも鬼のような心が潜んでいるのだと。
    そうニコリとした一瞬が。

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