あらかじめ失われたふるさとへの道順
新玉川線といえばいまは地下をつきすすむ郊外電車だがかつてその上をワタシのちんちん電車が走っていた。急所・渋谷から乗車する場合もへそのへり二子玉川から乗車する場合もごとごと揺られて同じくらい強精剤入り玉茶をふるまい競ったといわれる茶屋が三軒こすれ合った三軒茶屋や女のいななきなびかせる上馬までは道のまん中なのにそこだけ女体をつきすすむ専用軌道を走るまん中にあるちいさな谷のまんなか中里駅。下車して極道の国道わたると丸鷹ストアのハゲオヤジの脇腹の脇に狭い坂道があって脇目もふらず下りていくと闇をくぐって往診に来てくれた大沼委員の看板。凡庸な商店街を横切ると少し道が広がりずっとそのまま行くとちちの記憶を落とした道。つきあたって(よく見るとさらに奥へ奥へとつづく極小の未舗装路があるのだが)右に曲がって隣の子のない夫婦の飼い犬が車に轢かれた小道を行く。左に曲がると薬科大学に行く坂道とのつけねのあたり幻のクリーニング屋の隣がかつての我が家だったのだが。そこにある見知らぬ扉にふれるとストン――鉱石の階段地中ふかく、一引き引きては千僧供養、二引き引いては万僧供養、至りてのちの新宿・牛込町。父色の煙もうもうたちあがるちちのふるさと焼野原。焼け残った火柱土車にのせ、えいさらえいと、引くほどに、ちちをつきさしちちのちちをつきさしちちのむすこはつぶやく。「もの憂いもちちのちちの国、恋いしいもちちのちちの国なり」住居表示は京都府中郡峰山町字御旅0番地。そふのふるさと白い草おいしげるさら地、そのときちちのおさなきころに亡くなりしははの鳥追う声そこから響く――弟、恋いしや、ほうやれ。姉御、恋いしやな。ほうっと追われて打たれて焼かれた骨のようにさらさらとくずれおちる土のひと粒ひろいあげ、ワタシのさがせぬふるさとの玉はちの道でなく川を流れささくれだった電柱がええいっとばかりロケット弾のように土車にのせられた女体につきささり引かれ引かれてぱっととび出た穴の先は貫通したちちのちちのむすこのむすこのなにもない情念――そしてそこには列島貫通する玉川の花電車ひらひらり。
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