世界の彩り

世界の彩り

リング ロング リング
時計塔の鐘が時を打ち始めるや否や
待ち構えていた僕は
鞄と帽子を引っ掴み
扉が音を立てて閉まるのを背中で聞いた
頭の隅では
この慌て様は何事かと
目をしばたたく同僚たちを想像したが

リング ロング リング
二つ目の鐘で
常識的意識は霧散
三つ目の鐘の音に
背中を押されながら階段を駆け下りた
四つ目の鐘で
ビルディングを飛び出して
石畳を半ば駆けつつ
リング ロング リン……
最後の鐘は振り捨てるようにして

土手に辿り着いた頃には
巻雲は茜に染まりつつあるが
空全体は未だ水色
黄金に照るエノコログサの群れ
銀砂の如くちらちらと映える川面
西日を受ける世界の
美しき眩さよ

僕は朝から気が付いていたのだ
昨日までとは違い
澄んだ水色の空の彼方には
魔法使いが箒で横切ったような
幾筋かの巻雲
天上は秋の空気に入れ替わった

こんな日は
それは見事な夕焼けになるのだ
見逃してはなるまい
僕の予報は当たるだろう
すでに世界は美しさを増している

やや空が染まり始めたと思えば
水色は透明なオレンジ色へと
巻雲の茜はさらに色づく
こんな見事な夕焼けは
滅多にあるものではないが
なぜこうも懐かしく思え
心が一杯に成るのだろう

空の趣は刻一刻と変じ
東の空は薄い闇へと静まった
西の空は煌めいている
低い空の雲の継ぎ目より
真っすぐに伸びる幾筋もの光の矢
あの矢の先では
何が照らし出されているのだろう
目まぐるしい変化に
ふと置いてけぼりになった目の先では
群青の空に早一番星が輝きぬ

この世界を彩る
素晴らしきもの美しいもの
僕はなるべくたくさん
この目で見ておきたいのだ

投稿者

大阪府

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