恋する詩人 (第一詩集)
若い頃に書いた諸作品です。もう何十年前になるのでしょうか…。
世界史詩Ⅰ
エラトステネスが
我等が地球の
「まはりをくるくる回っています」
世界史詩Ⅱ
アレクサンドロス大王の
黄金の額は
砂漠
熱風は吹く
紅信号
異国の空の下 遥かなる街角から
僕らを見守り続けている孤高の瞳
朝靄に煙る交差点にすっと立ち
六月に一点咲いた神々の薔薇
海
若者と娘とは
結婚に反対されて
小さな島から逃げ出しました
それでも二人は見張られています
青くて大きく澄んだ瞳に
忘れ物
夕暮れは
赤いポストを忘れていった
予備校の帰り道
恋する少女の頬さながらに
そこだけは暖かい
夜
一本足の電灯よ
お前はまるでひとつ目オバケだ
へんだ ぜんぜん怖くなんかないよ
じいっとうつむいて 寂しそうだね
余韻
ブランコは揺れている
風もないのに揺れている
ああ 彼をかなでる者は誰?
ついさっきまで
あの娘はそこにすわっていたね
その暖かい思い出に
いまでも甘く酔っている
月夜に彼は揺れている
夢
今朝 クラスで彼女に会うと
たちまち 彼の顔はまっかになった
「昨夜 夢のなかでキスをしたんだ」
ニュース
ろくに新聞も読まないけれど
それでも僕は知っている
あの娘の髪型が微妙に変わったことを
リンゴ
君はバラが好きかい
バラは机上の空想さ
どんなに美しくとも
あの畏れ多い刺のせいで
手折ることすらできやしない
それよりもリンゴはどうだい
育ててもうかなりになるが
いっつも赤く輝いている
キッスをしてみたいけど
いまだに許してもらえない
ああ 我が恋人よ
君の頬は健康そのものだね
灰皿のために…
灰皿のため
ライターのため
禁煙パイポのために
僕は何をうたえばいいのだろう
灰皿のため
ライターのため
禁煙パイポのために
僕はこんなうたをうたおう
灰皿はおととしの誕生日に
ライターは去年のクリスマスに
禁煙パイポは今日別れた日に
彼女が僕にくれたもの
奇跡
炎はいつしか灰となり
僕もいつかは骨となる
それでも炎は燃え続け
どっこい僕は今日も生きてる
涙
僕は泣かない
泣いたら大地は海となるでしょう
僕は決して泣いたりしない
なぜって君は泳げないから
失恋
グラスの向こうに夕日は落ちる
そうして俺は
熱い太陽を一気に飲み干さんとする
渋茶
熱すぎるのは僕のお茶
おまけに苦い
とても飲めぬと人はいう
近寄り難い その渋茶
僕の苦悩はそこにある
海
七月の雨上がり
七色の虹につつまれ
長い髪をほどいたあなたは
あかるい日差しのまんなかで
やがて人魚となるでしょう
空想
空の想いの
はるかなる
愛
僕の言葉は矢よりも鋭くあなたの胸に突き刺さり
僕の愛はシュワルツェネッガーよりも強くあなたを守るはずだったのに
あなたの愛は弾丸よりも速く僕のもとを去っていった
オクトパス
彼女はきれいな脚をもっていた
でも足の数ではタコにはかなわなかった
恋
抱き合った二人は
まるで化石
瞬間も永遠に匹敵する
ああ 愛よ 永遠なれ
待ちぼうけ
映画館の前
少女は
恋のためなら
モアイにもなるのです
花
悲しい花は咲いている
優しい娘は泣いている
夕陽たゆたう夕暮れに
娘はだんだん花になる
Arthur Rimbaud
乱暴な酔っ払いっ!!
雨
愚痴があるなら
雨に向かって
いってみろ
文句があるなら
雨にむかって
いってみろ
性懲りもなく
夜通し止まない雨にむかって
いってみろ
お前が何といったって
いっこうにかまいやしない
夜の雨さ
そんな奴なんだ
ひとりの夜 ふたりの夜
ひとりの夜は寂しいけれど
あなたを想えばそれも楽しい
ふたりの夜は楽しいけれど
あなたの夢に忍び込むすべもない
宝石
暗闇の淵に沈んだ宝石は濡れ
人知れず光り ひっそりと この世を呪う
薄明
夜明けの匂う少女を抱くと
少年は悲しげな翼の音を聞いた
それからふたりは戯れて
無明のなかで恋はしきりに笑ったのだが
春
僕らが浮き世の春にうかれ騒いでいたから
花は咲き花は乱れ咲き花びらの間に舞う僕らの喜び
花びらは光と降り全身に花びらを浴びて
花びらとともに散りしきる僕らの思い出の春
炎のように…
炎のように燃えているもの
水面のように透き通っているもの
それはあのひとの美しい恋
微笑ましい幸福そうなふたつの瞳
砂漠に朽ち果てた骨のようにひからびたもの
暗くさまよう深海魚のように醜くよどむもの
それは僕のこのにがい片想い
あなたの前で燃え尽き煙となり灰となり落ちては大地を汚す
ふたつの太陽
ある詩人はいった
むかし太陽はふたつあったと
ところで現在 僕の太陽もふたつある
(あんまり熱いのでのどはいつもカラカラ
胸の動悸もどうやら止みそうにない)
それは恋を知る幸福な女の
そして僕の苦しみを少しも悟らぬ非人情の
魅せるような 焼き尽くすような 挑むような
ふたつの瞳
片恋
Ⅰ
たとえ幾つもの眠れない夜を過ごしても
たとえこの肉体がどんなに衰弱しても
たとえこの両眼がどんなに落ちくぼんだとしても
たとえ僕がしまいには発狂しても
僕はなにひとつ悔いることはないだろう
君のためならば
Ⅱ
もし僕が幾つもの眠れない夜を過ごし
もしこの肉体が衰弱しきってしまい
もしこの両眼くぼみ切るまで落ちくぼみ
もし僕がしまいには発狂してしまったなら
僕はなにひとつ悔やまずにいられるだろうか
君のために
少女よ
少女よ ああ 君は海のざわめきを知らない
僕のこの揺れ動く想いを知らない
君のそこはかとない仕草に波立ち
とりとめもない言葉に荒れ狂う海の悲しい調べを知らない
あまりにもわずかな空のかげりに 海の面は深いうれいに沈み
あまりにもわずかな光に 海は輝き跳ねる妖精たちでいっぱいになる
海よ ああ 僕の心よ 望みはなべて満たされよ
凪いだ海の空に現れる太陽よ それは明るい君の笑いなのだ
失恋
僕の思いが雪となって降る
僕の思いが君の黒髪にかかる
僕の思いがその長い髪を零れ落ちる
僕の思いが大地に落ちてこわれる
それを君の美しい脚が無残にも踏みにじる
ROSE
君の窓辺に音もなくバラは咲き乱れ
君は安らかに夢をむさぼっている
僕は今宵も眠れない夜を過ごし
月影は君の窓辺をさまよう
バラの花びらをそっと濡らしながら
修行中
いろんな歌の真似はするけど
まだ自分の歌はうたえない
カラスはカアカアとしか鳴かないが
僕よりはよほど正直だ
プレゼント
こないだ買ってあげたバラは
小さな手の中でしぼんでいったけど
かわりに彼女の笑顔が咲いている
こうして命は巡りめぐるのでしょう
心理学
彼女はたいそう心理学が好きで
いつも恋の手練手管を分析してみせる
それでも 僕と公園を散歩する時は
雀のように 真っ赤になって逃げまわるだけ
黒髪
それほど長いようでもないが
ポニーテールに結ってある
群がる蝿を追い払うけど
僕には素直な小馬なのです
ディズニーランド
平日というのに嵐のような人混みだ
豪雨のように流れ込む人々
時に 僕は髪の長いひとりの水滴に恋している
手を握ればそれは夏の日にひんやりと冷たい
片想い
「真夜中の波の誘いに
浮気なあの娘はついてゆくから…」
彼はこう呟くと
砂浜に彼女の足跡を探しにいきます
薔薇
春の雨そぼ降る街角をひとり歩いていると
僕の瞳に映った路上の赤い薔薇一輪
踏みしだかれてひとりしくしくと泣いている
花も刺も散り 路上は赤く濡れ 心痛み傷れ砕け散る
白百合
バラをたとえに借りるとあなたはささやいた
バラほどありふれたたとえはないもの と
その頃 あなたはひとり刺のような思いを抱え苦しんでいた
ふたりしてみつめあった 白百合のように清純な夜
雨上がり
雨上がりの朝は音もなく晴れ
せわしげに街を歩く人々
どこかで車が走り どこかでしぶきが跳ねる
思い出は水滴のように輝き 静心なく青空を映す
清里
清里の夜風はここち良く吹き抜ける
静かに照らす月 ひと群れの星 万物は物の音に溢れる
それはあたかもかつての僕たちの夜のように
微笑み 安らいで おのづと満ち足りている
そよ風
野原にそよ風が吹いていた
思えばそれだけのことだった
あたたかい春の日曜日
野原にそよ風が吹いていた
ひとびとは楽しげに弁当を食べたりしていたし
ほんとうにそれだけのことだった
だのになぜだか無性に悲しくて
いまも野原にそよ風は吹いていて
木蔭で僕はずうっと泣いていた
カレーライスうと青空と失恋と
それはとっても辛かったから
冷たい水を何杯も飲んだ
辛くっておまけにとっても熱かったから
大粒の涙がポロポロと落ちた
窓からみあげれば太陽はとても美しく
青空がやけに眩しく目に染みた
その夜
美しい名だった
何度も小声で呼んでみると
部屋じゅうにその名がしみこんだ
夜 あなたの瞳は輝き
明け方 そのくちもとは微笑んでいた
それは花の名だった
あなたは花のように清らかだった
花のように あなたの芳香は悩ましい
真昼 あなたは咲き誇り
夕べ あなたは匂い立つ
その名
その日 雨はいちめんに匂いたっていた
街角にバラは濡れ
紅く映え
人々は静かに歩いていた
その日 夕暮れは紫色に包まれていた
路上には水溜まり
人々の横顔を濡らし
髪を濡らし 心を照らす
その夕べ あなたの名をささやいた
そこはかとなく風は立ち
僕はひとりだった
その夜 あなたは誰かを待っていた
月影はさやけく
そのひとはついに現れなかった
声
暗い海辺の夜
絶えることのない重たい波音にまぎれて
遠くから優しい細い声がする
なつかしい声 遠い昔に耳にしたような声
僕の暗い道を照らす一条の光のような声
その声に導かれて僕は悲しげに歩む
ああ 母のような 恋人のような 姉のようなそのひとよ
いつしか僕はそのひとの胸もとに抱かれ
ほのかな光となって夜の海辺をさまよう
灰と吸い殻
物にはなべて凋落があると詩人はうたったが
それはほんとうだ
みよ 絶えず休みなく降りしきる花びらを
夕暮れ時の公園に 終電の去った真夜中のプラットホームに
汗まみれの運動場に テニスコートに
はては我らが部室にも降る
あきらめのように 最後のはかないホタルの光のように
散るとしもなく散ってゆくもの
あわれ 人生の花々
良月夜
ながいことひとり月を見上げていた
凍えるような寒い夜
魂は萎え衰え うち沈んでいた
窓辺から見上げる月はまるく
冬の大気はしめやかに中空に燃えていた
悩める魂はいつしか翼をまとい
音もなく天に舞い上がっていった
鳥は月の湖上に静やかにその翼を浸し
水面はくもりない鏡のように輝いていた
恋
サングラス
あなたが眩しいからかけた
コンタクト
もっとじっくり眺めたかった
近眼
ふられてからなった
ある女の子
化粧は濃いほうだったし
それっぽい娘だったけれど
彼女はまじめだった
どのサークルにも入っていなかったけれど
いつだって彼女は忙しかった
毎日のように授業に出ていた
学校がひければバイトに行った
家に帰ると予習をした
化粧は濃いほうだったし
それっぽい娘だったけれど
彼女はごく普通の女の子だった
時々 夜には長電話もしたし
時々 灯りを消して窓辺で泣いたりもした
酔いどれ
その晩 彼は前後不覚になるまで酔った
帰り道 何度も立ち止まり 何度もひざまづいた
駅を降りても帰る気にならなかった
遠回りしようと決めた
少し歩くと公衆電話があった
酔い覚ましに中へ入り込んだ
そこで千円のテレカを買って彼女に電話した
タバコに火をつけて
とりとめのないことを話した
ひときわ陽気になったり
時おり落ち込んでみせたり
それとなく「彼氏いるの?」って聞いてみたり
「酔っ払っててゴメン」と何度も謝ったり
意味もなく何度もうなづいたり…
長い電話が終わった
すると彼女はすべてを忘れてすぐにぐっすりと眠り始めた
彼は電話ボックスを出た
まだ帰る気になれずに
明け方まで暗い公園のベンチに座り込んでいた
花の教え
「人生にあらがうな」
咲く時は咲き
散る時は散れ
花のように
ある愛
愛しい と書いてカナシイと読む
ああ そういえば
あのひとは僕の愛しい人だった
生き方
雨の降る日は静かにものを思い
風吹く夕べは背中を丸めて街を歩く
友と酒を飲めば陽気に語り
恋に破れたら悲しい歌をくちずさむ
海辺
夜の海辺を歩いてた
たったひとりで歩いてたんだ
あなたに恋をしてたから
ピラタス
山を登った
雨が降り 霧が山をおおった
高くどこまで歩いてゆこうとも青空は見えず
太陽はいつまでも僕を照らそうとはしなかった
詩人
ある日
ある日ある声がした
「実はヘビにも足があるように
そしてヒトにもシッポがあるように
醜くて、天ノジャクで、猫背で、うぬぼれ屋で、不器用で、
気まぐれで、陰鬱で、臆病なお前にも
その背中に翼があるかもしれない」
慌てて背中をさぐってみたが
あるのは場違いなニキビばかり
コメント