桃太郎の神殿

          
今日こそは 生まれるのだろうか
今日も太古と つながる安眠を
むさぼっているのかい?

高台にある神社に行きたくなった
祝詞が聞こえる 
うつくしい場所にしか
神々は住まない 
 海が見える。
 海は、なぜか懐かしく
 未来の匂いがする

生まれていないものを ことばでは あらわせない
まだ 名付けてられていないなら 君は、神に近い
君のために 神殿を夢想しよう

神殿の深夜零時
 はらみはらみ はれのはらみ
 きみのために いのりませう
 おんみのために 建立しませう
 
神殿の一時
 カミツレの花は 今は寝ている
 カミツレの若い花は ストーンサークルのように立っている
 老いた花には 中心に黄金の台座のようなものを持つ
 花をバスティーユした神殿で 君を想う

神殿の二時
 カミツレの花言葉は「困難の中の力」
 こんなんのなかでの ちからは、たから
 あたらしい たからを 柱にかかげ
 ふるい たからを 台座としよう 

神殿の賛辞
 遠方からきた 時鳥(ホトトギス)が夜通し 唄を歌っている

神殿の余事 
 愚痴しか言わない友人が 木陰で今日も泣いているのは知らない不如帰(ホトトギス)

神殿の護持
 様々な起死回生案を求めて 街は目覚めようとしている

神殿の六時
 頭の上を小鳥が囀っている
 こどものこころで お遊戯会の練習をしてみる
 「ニュースだよ ニュースだよ ごんべさんのお宅に
  あかちゃんが生まれたよ」
  ごんべさんが誰だかしらなくても 
  理由もなく喜ばれるのは
  実は 
  普通ではない奇跡だということは
  わすれよう

  君を待っている
  
   
神殿の七時
 カミツレの神殿の柱に 夕日が差し込む
 洗面所で 今日も 水が はね
 台所で 湯が沸かされる

神殿の八時
 君のお母さんは おなかにいる君のことを「桃太郎」と呼んでいる。
 君が桃太郎なら 雉は誰だろう。
 東京にすんでいたころにね。綺麗な羽根を持った雉が裏山から
 飛び出してきたことがあったよ。東京が大都会とは 限らない。
 君が桃太郎なら きっと 自分の目で自分の世界を見ることができるね。

神殿の久慈
 君が桃太郎なら 犬は誰だろう。
 犬は社会性のある動物なんだってよ。
 だったら、一匹でなく 大勢の見方のできる味方が
 君を 守ってくれますように

神殿の従事
 君が桃太郎なら 猿は誰だろう。
 いずれ去る人々のことだったりするだろうか。
 
神殿の十一時
 身体を流れる血が砂鉄のようで
 そわそわする 
 そういうば胎児は生命の歴史を辿って人になるのだそうだ
 恐竜のような尾のある胎児が やがて人となり
 現れるのだろうか

神殿の十二時
 君が生まれた
 
 
 

 
 

 

 
 

投稿者

広島県

コメント

  1. わが子の誕生を待ち望みながらこの興味深い詩を書いたのですかねえ。すごくいいなぁ。神々しいなぁ。たしかに伝説だよね、一人の人間が無事生まれるってことは。
    それとは別にとてもうまいなぁ。構成がすばらしい。

    カミツレ、カモミールは好きな草花。ギリシャにいったときヘパイストスの神殿だったか、そのまわりにカミツレがいっぱい咲いてた。そのイメージが甦った。蚊よけにもいいしね。

  2. まだ生まれてこないものを神のように想う
    新しい命を待つひとの言葉が
    深夜の神殿から聞こえてくる祝詞のようです。
    刻々と時をきざみながら
    すでに新生「桃太郎」の物語は始まっているんですね。

  3. すごい素敵!
    です。
    懐かしい心地にもなりました。

  4. きびだんごを持って産まれて、鬼退治をなされるのですね!

  5. すごいです、これ大好物です。
    神様と人間のそれぞれの視点が行ったり来たりしているようで、深いマリアージュですね。

  6. 王殺しさんへ

    ギリシアの神殿は、カモミールが群生している場所があるのですね。
    うわあ。素敵! わたしのイメージでは カモミールの咲き始めって、パルテノン神殿のようだと思ったので、こんな詩にしてみました。(この詩の場合は、なぜか桃太郎なんですけれどね)
    カモミールが群れて咲くと香が良いですよね。ハーブ園でカモミールに包まれる状況を経験したことがあるので、カモミールの香の心地よさは天国だと思います。しかし、わたしとしては ほんとうに 神殿にカモミールが咲くことがあるとは思っていませんでした。感動しています。コメントをあありがとうございました。

  7. yo-yoさんへ
     嬉しいです。よよさんだわ。
     まさしく祝詞のような詩が書いてみたくて 書いてみました。
     はらいたまへ きよめたまへ というような日本の祝詞のような詩を目指しました。
     桃太郎くんには、いまは 普通の日本人の名前がついているのですが、
     神様のように感じた日のことは 忘れたくないです。

  8. たちばなまことさんへ
     「すごい素敵!」を 頂戴しました。ありがとうございます。
     なつかしいですよね。わかります。

  9. timoleonさんへ
     きびだんごを持って産まれて、鬼退治をなされるのですね!
     おこしにつけた きびだんご ひとつわたしにくださいな♪
     ですものね。私の知っている桃太郎は、育ての親であるお婆さんに
     きびだんごを持たせてもらうんですよね。団子のレシピを習得したいです。
     

  10. あまねさんへ
     おひさしぶりです。「大好物」との言葉を頂戴しました。
     私も、いくつか あまねさんの作品を 拝読しました。
     好物と仰るのが なんとなく解るような作品をお見受けしました。
     ぽえ会に入らせていただいて よかったなあ。と しみじみしてしまいます。
     お読みいただきありがとうございます。
     

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