ピエロ

また語ってしまった

自分博物館の
一番奥にある展示室から
引っ張り出した草食恐竜の
爪の先ほどの凶暴性について
したり顔で語ってしまった

いつもの武勇伝ですね
笑っていない目でつぶやく彼女

それ聞くの7回目っすよ
片方だけ口角を上げて嗤う彼

違う違う
この話をするのは8回目だ

ああ
止めよう
本当に止めよう

博物館なんて今すぐぶっ壊して
瓦礫の上に大きなテントを立てよう
もっともらしい名札のついたドアを
全部きれいに取っ払って
恥ずかしいライトに照らされた
円形のステージを作ろう

そのステージでわたしは
忌々しいスーツを脱ぎ捨て
空々しいネクタイを解き
禍々しい肩書を紙吹雪にして
お間抜けな下着姿で自分を晒すのだ

ほとんどセクハラですね
笑っていない目でつぶやく彼女

そんなことしなくても
まんまピエロじゃないっすっか(笑えないけど)
片方だけ口角を上げて嗤う彼

違わない違わない
分かっていながら語り続ける

ああ
止めたい
本当に止めたい

自分博物館の館長のオモテの顔は
くたびれた会社のくたびれた係長
食いっぱぐれがないと親に言われるまま受けた
公務員試験に落ちて
気がついたらずっとここにいる

いつもの大説教の後
誰もいなくなったミーティングルームで
ひとり項垂れる

うなじに当たる
夕陽のスポットライトが痛い

リラックマと同じところについている
昭和オヤジの着ぐるみのジッパーさえ
下ろすことができないわたしは

胸の奥で消え残った埋火を
ドウケシたらいいのだろう

投稿者

東京都

コメント

  1. ドウケシたら!
    上手いです。
    哀愁と、なんとも言えない愛らしさが。

    ご無沙汰してました。

  2. あまね さん

    >ありがとうございます。

    よくぞ、気づいてくれました!
    本当に書きたかったのはそれだけだったかもしれない。
    哀愁はそれなりの歳なのでイヤでも滲み出してしまいます(笑)

    お久しぶりです。
    コメント嬉しかったです。

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