美しい庭

誰しもが
心から笑って
生きていたい

魔術師は古い本に
微笑の種子の
作り方を見つけ
二年七カ月研究の末に
小指の爪ほどの
黒い種子を作り上げた

家族や親戚
友人や近所の人々
あらゆる知り合いに
魔術師は微笑の種子を配った

食せばたちまち
皆は心からの
微笑を浮かべるのだ

魔術師は満足であった
町外れの工場の社長が
やって来るまでは

この金塊で
これから作る種子を
全て売ってくれという
社長の申し出は
無論撥ね付けたが
言い知れぬ不安が
心に住まったことに
魔術師は気がついた

それからも
種子を売ってくれと
社長は付きまとい
困憊した魔術師が
新たな種子を作る気力を失った頃
友人の協力で
社長の懇願は
ようやくに収まったが
協力のお礼として
要求された通りに
種子を五粒渡してから
彼が本当に友人であったのか
魔術師には分からなくなった

社長に煩わされている間に
街中のあらゆる店に
微笑の種子の偽物が出回っており
真っ黒に塗ったヒマワリの種が
驚くような値段で売られ
また買われて行くのだ

手元に残った十一粒の種子と
魔法の本を持って
魔術師は逃げるように
街を去った

年月は流れ
魔術師は園丁となり
小さくも
美しい庭を守っている

荒野に蒔かれた
微笑の種子は
引き裂き埋められた
魔法の本を養分に
今や若木へと育った

誰も入って来ぬよう
園丁は美しい庭に
垣を巡らし
三匹の番犬を
日夜放っているが
どこからやってきたのか
時折小さい人たちが
庭を駆け回っている

若木の枝先に輝く黒い種子へと
彼らは腕を伸ばすが
園丁はベンチに腰掛け
目を細め見守っている
微笑の種子を
食べようが食べまいが
小さい人たちは
美しい庭に迷い込んだ時から
眩しいような
微笑を湛えているのだ

投稿者

大阪府

コメント

  1. 大人たちは無垢な笑みをどこに置き去りにして来るのでしょう・・・
    いろいろと考えさせられますね。
    ところで社長とひまわりの種のその後は・・・汗

  2. @風太郎

    コメントありがとうございます。
    ああ、本当だ、社長とヒマワリの種のことが置き去りに…。
    社長は転身軽やかに、次なる上手い話を探しているのでしょうね。ヒマワリの種子は、効果がないため、店先から姿を消すと思います。
    心から笑って暮らしたい、誰しも願っているかと思うのですが、上手くいきませんね。

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