どこにもなかったここから

校庭には、もくれんの雨が流れて、
ぼくの恋は打ち捨てられていた。

ぼくの恋はお姉さん、
あの優しい、
踏み切りのむかいにある花屋の、
いつでもプリムラを売っている、
さわやかな笑顔の⋯⋯
うすい雲母のような気高さ。

教室の窓から見上げる空は、
今にも泣き崩れそうです。
神様などいないかのようです。
神様などいないかのようです。

そんな僕らとまわりを照らして、
ひかりは少しずつ世界を包んでく。
雨は、一粒一粒とあがる。
静寂が雨音に代わっていく。
虹が、賑わしいダンスの準備をしている。

校庭には、もくれんの雨が流れて、
ぼくの恋は打ち捨てられていた。

やがて何年もの時が経って、
ぼくがすべてを忘れ去ったとして、
このもくれんの雨と、
静寂の時間とは続いている。
そして、虹がこそりとダンスを踊る。

ぼくは、すこしずつ心をからめとられて、
裸の心になって、
恋心も、羞恥心も、臆病心もすべて
<彼ら>の手に託していくことになる。
それは<きっと未来だ>、という約束。
完成は、決して来ないという感覚。
たどりつけない億マイルの距離。
水を差す、精霊の囁き。

いつのまにか、
教室から校庭を見ていたぼくは、
静寂も賑わしさも流れて、
精霊たちのダンスはそのままに、
恋するお姉さんの瞳は永遠の光に、
かざしたままで、あずけたままで、
どこにもなかった<ここ>から、
現実という夢にむしろ戻ってくる。

現実という夢にむしろ戻ってくる。
現実という夢にむしろ戻ってくる。
現実という夢にむしろ戻ってくる⋯⋯

投稿者

宮城県

コメント

  1. 現実という夢にむしろ戻ってくる⋯⋯

    これらの現実は、宇宙の見ている夢、なのかも知れませんね? リアルな夢。

    でも、現実は、現実だ。
    現在を、大切に出来たら、すてきです。

    この詩の話者の、落ち着いた語り口が、いい感じです。

  2. @こしごえ
    様。その部分は、夢のような現実、というだけではあるんですが、現実が研磨されて夢のようなものになってしまった、というシチュエーションですね。けっして幸せな夢というわけではないのですが、そのへんの解釈は読者に任せたいと思います。

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