ケヤキ

ケヤキ

ケヤキは自身が「逆立ちした竹箒」であることにほとほと嫌気が差している。そんな
ケヤキのもとに、天空から救世主として飛来するのがムクドリの群れである。ショッ
ピングモールの入り口近くの、落下した糞で焦げ茶色に染まったガラス張りのルーフ
と、駐車スペースまで達する糞でベトベトの地面は、それぞれムクドリ達が仕掛けた
ケヤキのメタモルフォーゼへの優れた起爆装置なのである。加えて鳴き声の大合唱と
いうNoiseの存在も忘れてはならない。これらが惹起する情動の激しい波立ちに襲われ
て、ヒトは慌ててケヤキの枝を伐採し始める。ただし、中央近くの枝だけは幹として
一本残し、上部は短く刈ってしまう。その結果、ムクドリ達はディアスポラの憂き目
に会い、砂漠で苦難の行進を始めることになるのだが、これは絶えず更新される救世
主としてのムクドリ達が己に課した、厳格なる通過儀礼なのである。       

天空への憧憬、つまり超越性への渇望を己が生の宿命とするケヤキが、伐られてもな
お空に向かってぐんぐんと枝を伸ばし、初夏には瑞々しい若葉を繁茂させ、秋の紅葉
と落葉を経て、再び「逆立ちした竹箒」になってしまうのにそう長い年月はかからな
い。すると何故かは不明だが、ケヤキに再び嫌気が差してくる。その時、更新された
救世主としてのムクドリの群れが、再び天空からケヤキのもとに飛来する。ヒトはま
たも慌ててケヤキの枝を伐採する。その結果、ムクドリ達のディアスポラと砂漠にお
ける苦難の行進……。このサイクルが何回か繰り返され、ケヤキの幹は極端にひょろ
長くなり、今では首が痛くなるくらいの見上げる高所で短い枝を扇状に広げている。
         こうしてケヤキの「逆立ちした土間箒」へのメタモルフォーゼが終わる。              
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                           

投稿者

広島県

コメント

  1. とても面白かったです。

  2. たかぼさん、コメントありがとうございます。私に取り、最高に魅惑的なコメントであります^^)。

  3. あああさん、コメントありがとうございます。はじめまして。
    いやもう感性の摩耗を自覚する今日この頃でして、詩の萌芽となる「気づき」になかなかそれこそ”気づけ”ないという、ボケーッとした毎日を送っているんですよ。こちらに参加して、皆さんの作品から良い刺激を受けております。どうぞよろしく。

  4. 面白いなぁ、メタモルフォーゼ。

  5. あぶくもさん、コメントありがとうございます。
    面白く読んでいただけたみたいで、嬉しいです。またよろしく。

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