足の狭間

 空間の湿度を二割だけ上げる低音
 秋の気配に少しだけ抵抗する
 頼りない熱を孕み
 天上で舞う羽金の蝶

 エポキシ樹脂にほんの一滴
 クリアブラウンを落とした液体
 スライスされた果肉から滲みだす
 酸味のいろが溶けあって
 紙ナプキンで拭う
 口をつけた縁のルージュ

 さっきのパンコーナーで
 瞳孔へ迫ってきた
 床のタイルに張りつく油膜の光沢
 薄べったい黒
 気付かれない足の狭間の
 微かな息づかいは
 けして彼らのものだからではない

 頭上の蝶はもうただの乾いたセメント
 不意の夜であれば地上で誰もが
 互いの影を踏み外す
 ウエイトレスが清掃を始める
 二十時前、ビルを出る

投稿者

滋賀県

コメント

  1. 気付かれない足の狭間の
    微かな息づかいは

    ほんと、足の狭間の気付かれない視点を、
    リリーさんという詩人は、よく気付いて、詩にしていると思いました。着眼点が鋭い。
    リリーさんは、物事をよく観察する力があるんだと思います。
    その足の狭間の空気感を、詩の言葉によく定着しているなあ、と感じます。

  2. 日常風景をこのようなフォーカスと解像度で眺めて、質感を具に表現されるとあああと唸ってしまいます。

  3. @こしごえ

     こしごえ様、三連目のこれ、この表現されている物体はゴキブリです。^^
     ショッピングモールの食料品のパンコーナーの床に見つけてしまった、
     弱ってるゴキちゃん。今にも踏み潰されそうなのに動くと目につくからか
     じっとしている。運命による危険性は、人間だって同じで。不意の夜、
     見えない誰かの影は、互いの足の狭間で微かな息づかいをしている。そんな
     ことを思って書いた詩なのです。コメントくださってありがとうございます!

  4. @あぶくも
    様  
     読んでいただきましてコメントをくださりありがとうございます!^^
     この作品は最初、「玲瓏剔透グライダー」で書こうと試みたのです。
     最終連の途中からを、
       清掃を始めるウエイトレス
       ビルを出た二十時前、
       ゆるやかな坂で空を切り
       滑り降りていく氷晶の小さな翼

     という表現でタイトルへ回収しようとしたのですが、全然駄目だと思って
     断念しました。締めが甘い。それで「足の狭間」へタイトルを変えました。

  5. 遠近法が綺麗ですよね
    本当にお見事です
    失語症になって、、、よくわかります

    何て言うのかな
    MとS
    あるいは
    飴と鞭・・・

    カメラだったら
    望遠とマクロ
    いや
    広角かな、、、

    ありがとうございます

  6. 身体感覚と化学反応が入れ替わりながら迫ってくるようでした。
    凄いなぁって思いました。

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