感想文的自由なコラムPOECOLポエコラ #009

服部 剛

散歩とお酒で異界を視る 人 ― 長谷川忍さんの詩を読む ―

#009|2022.08.15

日本WEB詩人会を通して詩に親しみ、語らっている皆様、今日は。最近バタバタしてしまいあまりゆとりもないのですが、もうひと段落したら皆様の投稿詩を拝読して、僕も投稿したいと思います。

人それぞれに忙しい時はあれども、静かにゆったりとした時の流れの伝わる世界を描く詩人・長谷川忍さんの詩について、今回は語らせていただきます。

啓蟄–poet.jp

長谷川さんは「歩く詩人」です。散歩をしているとそのまま情景が詩になってゆくのです。ご本人と話すと「歩くと、日常と異界のあわいにいるような感じがします」と、ぽつりと語ります。

この「啓蟹」という詩も歩きながら、時に立ち止まりながら、メディテーション(瞑想)の感覚になってゆくのが伝わってきます。

独り静かなひと時に身を置きながら、温かくなり生物たちが姿を現し始める「啓蟹」の時期だとふいに思い出しつつ、人間である自分自身の臭みをも語っていることがこの詩の味わいなのでしょう。

「詩人とは独りでじっといることだ」とは、僕がだいぶ前に鎌倉文学館で見た詩人・堀口大學の直筆の色紙の言葉ですが、今も心に残っている言葉です。僕はその言葉を言い換えて「一人の時間が、その詩人を決める」と思っています。

サチコさん2–poet.jp

もう1篇紹介したいこの詩は、いつもの長谷川さんの作風と毛色の違う雰囲気もあり、印象に残ります。「サチコさん」とは、自分の分身でもあり、恋人でもあり・・?という展開には読ませられるものがあります。それでいて、架空の存在のようでありながらも、本当に「サチコさんはいるのでは――?」と思わせる説得力があるのです。

読者が自由に想像すればよいのでしょうが、僕は「心の中のある大切な存在」を想起しました。

もう1篇、僕がとても好きな長谷川さんの詩があります。長谷川さんは「お酒が好きな詩人」でもあり、詩にもしばしばお酒が出てきます。

その詩は夕暮れ時のビヤホールに心温かで粋な幽霊たちが集い、仕事帰りのサラリーマンたちがやってくるとふっ・・と姿を消す、不思議な世界です。

皆様それぞれの日常にも、大切な心優しい幽霊さんが風のようにさりげなく働きかける場面があるのかもしれません。

では、今回はこのあたりで。そろそろ出かけねばならないもので。また気になる詩人について、ここで語らせていただくのを、楽しみに。

服部 剛 プロフィール

服部 剛(はっとり ごう)
1974年東京生まれ。98年より詩作・朗読活動を始める。
07年より11年まで「ぽえとりー劇場」主宰。18年に詩集「我が家に天使がやってきた」(文治堂書店)20年に写真詩集「天の指揮者」(ドン・ボスコ社)刊行。今年からYoutube番組「ぽえとりーサロン」を始める。日本ペンクラブ会員。
ぽえとりーサロン
https://www.youtube.com/channel/UCVz3QCmwsYfy2uG9A-S5sEg

服部 剛