典子外伝 ーその2ー
明確に言葉の力で旅客機が飛ぶ、
今日、典子が乗っているベトナム行きの75便は、
関西空港から接頭語によって離陸したのだ、
ダージリンティは結露する木星の接近による仮死を、
始まりの期待と能面の視線とを略奪する、
コクピットの秋の思考・さわやかな青色の、
空間は質量によってゆがんでいる・萩の花も、
できるだけ山稜から交信するブエノスアイレスへと、
起立性麦芽の飲料をこの棚から移動する、
そのことによって文法も接続詞も仮定の世界となる、
ですから赤い外套の典子の内面を、
理性は高度1万メートルで、
不足する酸素の供給を受けながら、
しかも足下には神々の棲息するヒマラヤの雪・氷、
その熱量は実際、典子の指先を分離しプリズムし、
しぐれの宿のうす暗く天然温泉の香りが、
廊下にもしとしとと流れ込む、
この表現されようとして右の耳朶にふるふると、
欠損とたらいおけのぬるくなった3時頃、
飛行機の隔壁は粉々に飛び散った、
あと5時間後には〈オスタカノミネ〉に墜落する、
奇跡的だとヘリの操縦士は言う、
典子はヘリに吊り上げられて無事だ、
あの時わたしはテレビの画面を見ながら、
あらゆる修飾語をモーターに接続し、電気を流した、
ネオンサインのように輝く〈死者の国の〉生還者、
まるで変形された段丘の地対空ミサイル、
言語の空隙を埋めるために自律神経の、
あらゆる方角よりこの星に着弾する、
俺たちは逃走するアテナイの喜劇から・ウルミナから、
減職する朝のオートミール・ぬくもりの木綿豆腐の、
みそしるを愛する、そして朝の時間は永久に、
局在するアマゾンの原住民の最後の一人として、
パリコレの舞台にあがるそのままのまなざしで、
典子の手足はライトをあびてつややかな、
彼女は大阪を出立してから建設中の名古屋城に向かう、
平均的時速は約4キロメートルであろう・たぶん、
集中していれば柏原のあたりで食用蛙に対面する、
アラビア語の看板には〈ぶどう狩り〉の文字が読める、
落下傘を用意してあなたの紫のぶどうを口に投げ入れ、
愛しています、光よりも速く、愛しています、
地上のアマリリスを投げ入れて、
サマルカンドの野性の力は赤い土を泥沼の深々と、
秋空の愛しています、
私語する熱帯の裸族です・わたしは、
典子の喉から突き出す、ヤリの先。
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