あの日僕は一個の無になっていた

地球の分布図を夕空に広げて
ありあまる嘘の感情をひかりにかざして
ああ、君にだけは
透かし模様のシャツを着て欲しい
大気圏の浮遊する、少女たち
地球のシャングリラ、とばされる帽子
かわいく笑い、ほそい肘の、水素のけむり
言語学者たちのユーモアというやつは
わたしには聞こえない、わたしにはノイズ
空から引かれる解釈のわかれ
すみやかに、顔を持つ、人間のすみかというもの
ランタンの光、わたしはここです
山羊と蜜蜂の法則で、すすみゆく、白樺の林
わたしはここです
みずみずしい誇りのように、さしこむ
わずかである倒木のしたたり
過去のあいまいさは、ツリガネソウのような
現象する心理の、つまさきの、湿土
歩きつつ、歩きながら、あわれ知るわれのことだま
倒れ込む象のように
信頼の倒木の象のように
自己はあまりに自由にソーダ水の中に棲む
巨木の枝は凍り付き、自由のつらら
最大の質量の物体が、凍り付き、雪原に立つ
少女のまつげの湾曲する
黒々と、うごかない、真実の、形あるもの
わたしの肩にくいこむ
タングステンの重みの静けさ
笑いかけ死にそうな微笑する少女の
森はすでに〈核兵器によって〉、死す 。
夕暮れてゆくわたしの存在の
静かにたたずむ満願の月の
放射能は静かにながれ
やすらかに死す
少女のそばで
あわれはあるか
よどみの
まなこ。

投稿者

岡山県

コメント

  1. 次から次へと想像を超えた言葉の展開が訪れて、読んでいて高鳴ります。
    届きにくい祈りのようなかなしさを感じました。

  2. 世界の現状とは別のところで、美しい詩の世界に、たわむれていたいのですが、それでもかすかに、ふるえる羽のように、しのびよる夜の蛾の、鱗粉のようなもの、それをすいこむことは、これもまた生きているわたしの、現在なのでしょう。

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