『月触』

いつの間にか俺の胸の底に息を潜め
空を見上げれば死ぬ深海魚の瞳を見れば
流動する波の重さを掻き毟り
沈みきれない深さに溺れ次元を違えるように
月を二つに割っている

記憶と言葉との交尾の連続に
時は入る余地もなく
溢れそうな無形の何かは
涙に薄められた泡の狭間を
漂うばかり

撃ち込め
撃ち込め

光さえも吸い込む黒曜石のような孤独の空白に
お前の存在の記憶の波を粒子を
怒りを
悲しみを
憎しみを
歓喜を

言葉の表面張力が震え破れ
声にならぬ叫びがお前の紅い唇から漏れ
完璧な死の種がその対極の月の隙間に根を張り
ひとつの完全な宇宙となって解き放たれ
焦がすほどに溶けるまで
近づかず
離れず
祈る

満たされた月の輪郭をなぞり
お前の白き指に触れる 
その時を

投稿者

神奈川県

コメント

  1. これらはすべて宇宙的スケールで語られます、それでも人間の欲望の性愛のシグナルとして、巨大な渦の中で存在は回転しています、どこまでも欲望でありながら、どこまでも美しくありたいと、生まれ出たばかりの幼生の人間の。

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