白い羽の人
五月がやって来たから
石清水八幡宮からやって来た姫みこが
竹の筒に清らかな水をそそぎ
その水で朱の絵具をとき
わたしの額に朱の丸印を書いた
これでわたしはこの夏の河の『立て人』となった
そのつとめは夜明け前から日暮れまで
河原に立ち、やって来るであろうシラトリの
目印となることだ
つらいつとめではあるが、これはこの村の成人した
男の一生に一度の大事な役目である
わたしは禊して家での食を断ち
河原につくられた小屋に入った
夜明け前になると姫みこがやって来て
わたしの顔にサカキの葉をかざして
祓いの詞をのべる
そして竹筒に入った〈かゆ〉のようなものを飲ませる
わたしは小屋を出て、定められた場所に立つ
やがて夜明けがやって来る
鳥はすぐにはやって来ない
例年だと一週間ぐらいはかかる
夕暮れになるとやはり姫みこがやって来て
小屋にもどりなさいと言う
わたしは小屋に入りそのからだを横たえる
すると姫みこはわたしの体をふく
シンボルまでふく
しかしこれは神儀なので、もらしてはいけない
最後にやはり竹の筒から〈かゆ〉のようなものを飲む
そして眠る
・
夢の中でわたしは姫みこを抱いている
胸乳をつかむとけもののように乳が飛ぶ
姫みこはそれを器用に竹の筒に受ける
誰にそんなことを教わるのだ
宮には古みこがいますから
そう答えるままに姫みこはイラトリになる
わたしはその白い羽に包まれて果てる
・
夜明け前に姫みこがやって来て
わたしの顔にサカキの葉をかざして
祓いの詞を述べる
今日にはシラトリがやってきます
なぜわかるのですか
夢を見ましたから。
コメント
良い雰囲気の幻想譚ですね。お見事です。